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2012-05-29 00:00
米国の経済格差が高等教育に及ぼす影響
島 M. ゆうこ
エッセイスト
米国経済状況を反映する指標のひとつに貧困線が挙げられる。昨年9月に米国国勢調査局が発表した2010年度の貧困線に関する最近の各メディアの報告は、その解釈や数字が若干異なるため、国勢調査局の統計資料を調べたところ、米国の貧困線は、1993年から2010年までの過去17年間で、2010年が最も高いことが分かった。ただし、2009年から2010年で極端な変化のあった州はゼロであり、貧困線が上がっている州は50州中、32州である。当局の発表によると、2010年の米国全体の貧困線は15.3%(4620万人)で、2009年の14.3%(4290万人)から増加している。世帯別には、一般家庭の2009年の貧困線は11.1%(880万世帯)であり、2010年には11.7%(920万世帯)に増えている。既婚カップルの場合、2009年の5.8%(340世帯)から2010年には6.2%(360万世帯)に増えていることが判明した。米国国勢調査局の貧困線は、2009年の場合、65歳以下の個人で11、161ドルで、2010年は11、344ドルである。18歳以下の二人の子供を含む4人家族の場合、2009年は21,756ドル、2010年には22、113ドルで貧困線の所得基準はわずかながら増えているものの、約800万の子供達がこのような貧困線の家庭に含まれている。
ミシガン大学の貧困調査センターによると、貧困線の測定には、様々な要素があり、フード・スタンプのような現金は加算されていても、メディケア、メディケイド、住宅補助金など政府のサービス分野は含まれていないため、このような「貧困線の数値は必ずしも完全に正確ではない」としている。しかし、複数の資料が示すボトムラインは、中産階級の所得も減少しているということだ。中間収入(Median Income)額の変化に関する国勢調査局の資料によると、2009年から2010年の実質所得〔インフレーション調整後〕は、51、190ドルから50、046ドルで、2.2%減少している。当局の報告によると、米国が景気後退に直面した2008年直前の2007年から3年間の実質所得の中間収入は6.4%減少していて、明らかに、中産階級の収入が減少している。また、1960年代以降、65歳以上の貧困は著しく減少する一方で、子供の貧困線は、全体の貧困線より幾分高い傾向にあり、独身女性が世帯主である家庭の平均的貧困線は、全体の貧困線よりかなり高くなっていることも米国の貧困の特徴である。
一方、同じ期間のトップ1%の収入は、著しく上がっている。非営利のシンクタンク団体『予算及び政策優先センター(CBPP)』によると、トップクラス1%の所得は1970年から増加傾向をたどっている。トップ1%に属するグループの中で、2009年から2010年の平均収入418,000ドルの世帯は4.6%、798,000ドルの世帯は8.1%、280万ドルの世帯は13.7%、2380万ドルの世帯は21.5%とそれぞれ上昇していることが判明している。特に、トップ1%の中でも超トップの0.01%の人口層が最大の上昇率を示し、金持ちほど収入が上昇する率が高くなっている。このような貧困層の拡大、中産階級の収入減少、および富豪層の収入増大は、経済格差を如実に示した驚くべき数字であり、1%に対する99%の「ウォール・ストリートを占拠する」運動の根拠がうなづける。
とりわけ、経済格差は、様々な方面に影響を及ぼすことは言うまでもないが、特にその直接的な因果関係は教育の分野に顕著である。ワシントンDCにある、公共政策組織の『アメリカ進行センター(CFAP)』によると、ミシガン大学の経済学者、マーサ・ベイリイとスーザン・デナァースキーは、低所得と中産階級の家庭の子供の大学進学率が、高所得家庭の子供に比較して低下していることを発見した。特に、1961年から64年および1979年から82年に生まれたグループを対象にした調査結果の比率は、トップクラスの高所得家庭の子供の大学卒業率が、低所得と中産階級の家庭の子供の卒業率より18%も高いことが判明している。更に、低所得の家庭の学生でテストの成績が最も良い学生の大学卒業率は29%であるのに対し、高所得家庭の学生の中でも、最も成績の悪い学生の大学卒業率は30%であった。これは、所得が教育に及ぼす著しい影響力を示唆している。経済格差も含めて、このような傾向が続けば、教育分野はもちろん、米国社会がどのような傾向になるか想像できるような気がする。現在、教育費の削減を主張する保守派の議員も多いが、一方、米国の経済の安定は教育が鍵だと考える専門家も多い。
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