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2012-04-23 00:00
(連載)わが国の北朝鮮制裁の限界(2)
緒方 林太郎
衆議院議員(民主党)
かつては、国連安保理の制裁と言えば「国丸ごと制裁」みたいなものだったのですが、やはりカネ、モノの流れを止める制裁は劇薬過ぎるということが分かり、ここ10年以上、国連安保理で出てくる各種制裁決議はスマート・サンクション系のものばかりです。とすれば、対象を絞り込んだ上でカネやサービスの流れをガッツリ止めてしまうというのが一番賢いやり方です。ただ、ここで難しいのが「絞り込む対象は誰か」ということです。ここは日本のありとあらゆるインテリジェンスを投入して、「この人達、この企業達にはおカネが渡らないようにしなくてはならない」とすべき相手をきちんと特定できるかどうかです。これはなかなか難しいですけども、インテリジェンスのみならず、銀行業界等も動員しながらやってみる価値はあるかもしれません。
今の外為法では日本単独で制裁を打てる法整備が出来ていますから、きちんと調査した上で意思さえ有すれば、外為法第10条で「我が国の平和及び安全に特に必要がある」と判断したうえで、支払、資本取引、直接投資、特定資本取引、役務取引の許可制に乗り出していくことは法制度上は可能です。いずれにせよ、日本単独の制裁には第三国迂回の可能性が常にあります。対北朝鮮でモノ、カネを止めても、一旦第三国を経由してしまえば何の意味もありません。この抜け道がある限りは、単独制裁は一定以上の効果は望めないということになります。しかし、日本単独制裁でもこの第三国迂回の方法に対処するやり方がないわけではありません。それは、かつてアメリカが対イラン、リビアに対して講じた「イラン・リビア制裁法(略称:ILSA)」の方式です。
これは何かと言うと、日本では暴力団追放条例がよく似ています。暴力団とお付き合いした人は、行政関係のところから徹底的に排除される、というのがこの条例のキモです。ILSAは「イラン、リビアに年間4000万ドル以上の『投資』を行い、それがイラン、リビアにおける『石油資源開発に直接かつ著しく貢献した』と大統領が判断する者等には経済制裁を課す」という内容です。制裁内容はアメリカの金融、輸出、輸入、政府調達といった分野から排除されるというものです。これだと第三国迂回にもある程度のタガが嵌まります。アメリカのILSAの方法論自体は決して問題ではありませんでしたが、用意された制裁メニューがどう見てもWTO違反のオンパレードだったので、その適用において色々な問題を引き起こしました(日本も懸念を表明していました)。ただ、これは制裁メニューさえ上手く選べばいいいう面があります。WTOのルールだけを理由にILSA的なものの検討をやらないということにはなりません。
しかし、ILSAのような制裁法はアメリカのような強国だからやれるというところがありますね。外交関係への波及のみならず、ケースによっては国内経済への影響も軽視できなくなりますが、その時に「そういう影響が出てもいい」と言えるかどうかです。そう考えると、なかなか日本がやるのは難しいかもしれません。日本がやると、具体的には「北朝鮮と深いお付き合いのある中国企業は日本から締め出す」といったことになるわけですけども、ここまで腹を括れるかどうかは大きなポイントです。さて、これから制裁を考えるのであれば、まず国連では大したことができないということを前提に、日本が何処までの腹積もりでやるかということになります。「対象を絞り込んだ効果のある制裁」、制裁スキームの歴史はいつもこの理想形を追ってきました。これが実務的に難しいんです。(おわり)
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