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2012-03-29 00:00
「進むも地獄、退くも地獄」の亀井
杉浦 正章
政治評論家
「野田君は地獄に落ちる」とすごんだ国民新党代表・亀井静香だったが、気がついてみると地獄に落ちていたのはなんと自分自身であった。「消費増税法案反対」で政権離脱を唱えて突っ走ったはいいが、党内で政権離脱反対論が続出、分裂状態に陥ったのだ。民主党小沢グループの反対論に呼応したまではいいが、同グループの敗退で、置いてけ堀を食らった。自らがリークした「石原新党」もままならず、75歳のオオカミ老人もそろそろ焼きが回ってきた状態だ。ところが、本人は焼きが回ったと思っていないから度し難い。虎の威を借りる狐ならまだいいが、たった衆院5人、参院3人の政党を背景に、自分が虎だと思って吠えているのだから始末に負えない。その象徴がNHK記者に対する会見拒否事件だ。3月28日の記者会見でNHK記者の出席を拒否したが、その理由が討論番組での時間の割り当てが少ないことだという。何様だと思っているのかと言いたいが、殿様だと思っているのだろう。
亀井は1996年の橋本内閣の消費増税の時にも、自民党組織広報本部長でありながら、総選挙で消費税に反対して、党内に混乱を生じさせている。おそらく消費税を不倶戴天の敵だと思うDNAを抱えているに違いない。今回の反対の根拠も、「連立の際に消費増税をしないと確認した」ということだけで、危機に瀕した国家財政への言及など全くない。また立党の原点である郵政民営化法改正案の成立が実現しないまま政権離脱が困難な現実への配慮なども全くない。党首がこれだから、国民新党のコップの中の嵐も止みそうもない。閣議決定反対となれば、金融相・自見庄三郎に法案署名を拒否させなければならない。しかし、自見はかねてからどっちつかずの様相を示していたが、官邸筋によると28日になって「大きくぐらついて、署名しそうになってきた」という。野田サイドの“工作”が浸透したようだ。
亀井は自見の説得に懸命だという。朝日によると自見は支援者に「閣議決定に署名する」と伝えたという。署名しなければ連立離脱となるのだが、肝心のポイントが揺らいでしまっているのだ。加えて幹事長・下地幹郎は「賛成」の方向で党内をまとめようとしており、国対委員長代理・中島正純は「郵政民営化法改正案の成立が先決」と、公然と反旗を翻した。亀井に同調しているのは亀井伯爵家の直系姫君である政調会長・亀井亜紀子ほか少数にとどまっている。要するに党は分裂状態になってしまったのだ。一方、亀井はリークして朝日に新年早々「石原新党3月旗揚げ」と書かせたまではいいが、慎太郎自身が渋っているとみえて、なかなか動かない。それもそうだろう79歳にもなって、「おれが、おれが」の政界カムバックでもあるまい。「3月新党」は当分先延ばしで、様子を見ざるを得なくなっている。
慎太郎は、息子の伸晃がいみじくも指摘しているように「都知事だから輝ける」のだ。だいいち消費増税について石原は推進論者だ。「消費税は税制学的に言うと、一番経済に悪い影響を与えない税。日本のような高福祉低負担では財政は持ちっこない。消費税は通さなきゃいけない」と断言している。新党といっても肝心の政策が一致しないではないか。亀井は、石原に加えて小沢グループにも働きかけをしているが、小沢は自分を民主党の原点ととらえており、亀井の口車に乗るほど馬鹿ではない。こうして亀井は、政界でまぎれもなく孤立状態となった。党内の亀裂は深まル一方だ。したがって亀井は、30日の閣議決定に向けて、これまでそうしてきたように、何か「へ理屈」をつけて、連立離脱の旗を降ろすか、党分裂を選択するかの二者択一を迫られる結果となった。「進むも地獄、退くも地獄」ののっぴきならない立場に陥っているのだ。
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