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2012-03-10 00:00
(連載)オバマ新戦略は「超大国の自殺行為」?(3)
河村 洋
市民運動家
2010年12月に日本国際フォーラムが主催した「外交円卓懇談会」で、私はインドネシア戦略国際問題研究所のリザール・スクマ所長に「インドネシアによる中東の民主化への貢献の可能性」について質問した。スクマ氏は「インドネシアはイスラム文明の周辺に位置するので中東には影響力がない」と答えた。私の質問は「まるでヨーロッパ人からのもののようだ」とも述べた。私にはアジア太平洋諸国でのそうした見方が、オバマ政権による「超大国の自殺行為」を何の疑いもなく受け容れてしまう素地となっているように思われる。
ここまで述べてきた観点から、私は、アジア太平洋諸国がオバマ政権による「アジア回帰」を万歳して受け容れるべきかどうかを再び問いかけてみたい。村田教授が「今後10年以上にわたってアメリカ主導の世界秩序に最も重大な挑戦を突き付けるのは中国だ」と述べたことには同意する。しかし、現時点で最も差し迫った脅威となっているのはイランである。ホルムズ海峡をめぐる軍事的緊張は石油価格を引き上げるかも知れないが、長期的にはイランの核保有の野望を野放しにすることの方が高くつく。1月28日に放映されたNHKの「ニュース深読み」では、イラン核危機に関する討論があり、その番組に出演した村田教授は日米連携強化による対処を主張した。日本の論客達の間でイランへの関心が充分に高いとはいえない中で、そうした鋭敏な問題意識に私は感銘を受けた。しかし私の質問に対しては、「アメリカには、中東で新たな戦争を起こさせずに、アジアに力を注がせるようにすることが、日本の国益に適う」と答えた。
問題は、アメリカが戦争に及び腰だとなると、イランが勢いづくことである。サダム・フセインがクウェートに侵攻したのは、アメリカ介入してくるとは露ほども思っていなかったからである。戦闘の意志は抑止力の要である。アメリカン・エンタープライス研究所のフレデリック・ケーガン氏とマセー・ザリフ氏は「国際社会が手をこまねいている間にイランの核兵器開発が進んでいる」と警告する。そうした状況の下、イスラエルは「必要ならアメリカへの通知なしにイランを攻撃する」とまで言っている。イスラエルは明らかに、イランに対するオバマ氏のチェンバレン的な態度を憂慮している。イラク戦争の勃発に際し、日本の反戦派は「ブッシュ政権がアメリカ世論の全てを必ずしも代表しているわけではないので、リベラル派の政権獲得による政策変更にも準備を整えるべきだ」と主張した。それならば逆に、日本側がノルウェーのノーベル平和賞委員会のようにオバマ氏に平伏して、礼賛する必要などない。
オバマ新戦略がアジア太平洋諸国にどのような影響を及ぼすかを論じる際に、アメリカとの同盟の真の意味を考え直す必要がある。アジアにとって必要なのは超大国のアメリカであって、ただの地域大国のアメリカではない。アメリカによる安全保障の傘は、アジア諸国を中国、ロシア、北朝鮮といった域内の不安定要因から守る。また域外の脅威と非伝統的な安全保障分野での脅威に対処するためにも、アメリカの安全保障の傘が必要である。よって「超大国の自殺行為」にはもっと警戒を強めねばならない。新戦略の問題は中東だけではない。そこでは「アジアの成長をアメリカ経済に取り込む」というバラ色の夢が語られる一方で、北朝鮮への対処については殆ど言及していない。しかしTPPをはじめとしたいかなる自由貿易の枠組も、世界規模での安全保障の土台がなければ経済的な繁栄を保証することなどありえない。アメリカ外交を学ぶ学徒であるならば「超大国の自殺行為」の真の意味を徹底的に考えるべきである。アジア太平洋地域の一市民として、私は、間違ってもオバマ政権の新戦略を、万歳して受け容れようとは思わない!(おわり)
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