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2012-03-04 00:00
ドイツの太陽光発電全量買取廃止決定が促す「太陽光神話」再考
高峰 康修
日本国際フォーラム 客員主任研究員
ドイツは、再生可能エネルギーによる電力の全量固定価格買い取り制度により再生可能エネルギーによる発電量を急速に増加させることに成功した、再生可能エネルギー利用促進の最先進国であると見做されてきた。そして、とりわけ、3.11後の我が国においては「ドイツを見習うべき」との議論が一部で高まっており、彼らが注目しているのは太陽光発電である。ところが、そのドイツが、太陽光による電力の固定買い取り価格を急激に引き下げるにとどまらず、2013年から、太陽光による電力については、全量買い取りを廃止するという決定を下した。まず、買い取り価格の引き下げについてだが、当初、今年7月から15%削減する計画であったが、これを4月に繰り上げるとともに、削減率も20%~30%に拡大することとした。次に、全量買い取りの廃止は、今年4月以降に電力系統に連系する太陽光について、2013年1月以降、各設備の発電量の10~15%を買取対象から外すとのことである。そして、一部の発電量については、自家消費や電力市場での売却を促す。
ドイツがこうした決定をするに至ったのは、太陽光発電関連の設備投資が過大となり、電力消費者が、固定価格買い取り制度による価格上乗せの負担に耐えられなくなっているためである。固定価格買い取り制度は、導入当初は競争力の弱い再生可能エネルギーによる発電に対して、はじめは固定価格による買い取りという名の補助金を手厚く与えるが、技術の発展により普及するにしたがって競争力が高くなるはずだから、買い取り価格を漸減させて行き、最終的にはゼロにしていく制度である。そして、買い取り価格の引き下げを通じて、目標とする普及率に誘導されていく、ということになっている。ここで、買い取り価格を高く設定し過ぎれば、過剰な設備投資が行われ、いわゆゆる「太陽光バブル」と呼ばれる現象が発生する。2008年には、スペインで太陽光バブルが弾けて、裁判沙汰になっている。太陽光バブルが相次いで弾けている原因の一つは、中国などが安価で太陽光パネルを製造するようになったためである。
固定価格買い取り制度による価格上乗せのせいで、電力価格が市場価格を大幅に上回る状態となってしまったのである。太陽光バブルが弾けると、当然、国内の太陽光発電設備業界は大打撃を受け、多くの雇用が失われることになる。ドイツの太陽光発電設備業界は、10万人以上に達する就業者の多くが、買い取り価格引き下げにより、職を失う恐れがあると言っている。我が国の、固定価格買い取り制度による太陽光発電促進論者は、こうした危険性をよく認識すべきである。我が国では、再生可能エネルギーというと太陽光ばかりに過剰に焦点が当てられており、「太陽光発電神話」とでも言うべき様相を呈している。しかし、実は、世界的にみても、必ずしも太陽光は再生可能エネルギーの第一というわけではない。ドイツは太陽光発電が盛んだというが、2011年の暫定値で見ると、再生可能エネルギーによる電力のうち、約4割が風力であり、太陽光は15%程度である。太陽光は、約2割を占めるバイオマスよりも少ないのである。
そして、総発電量に占める、再生可能エネルギーによる電力の割合は20%であるから、太陽光は3%に過ぎないということになる。たったこれだけのためにドイツが払う代償は、余りにも大きいと言わざるを得ない。これまでは、高価格の電力という負担があり、今後は、大規模な雇用喪失の恐れという事態が待ち受けている。再生可能エネルギーの導入増に異存はないが、太陽光偏重は改めるべきである。顕著な「風力バブル」や「バイオマス・バブル」などは聞いたことがない。地熱発電は有望であるし、潮位差発電なども研究の価値がある。再生可能エネルギー自体も多様化するのが当然である。我が国でも全量買い取り制度がいよいよ始まるが、太陽光バブルの危険性を踏まえ、再考する必要がある。少なくとも、太陽光発電による電力は、買い取り価格をよほど低く設定するべきであろう。そして、再生可能エネルギーが原発を代替できるなどというのは、あまりにも楽天的に過ぎ、軽々にそういう論議をするのは無責任である。
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