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2012-02-07 00:00
普天間固定化は事実上確定だ
杉浦 正章
政治評論家
「例えば10年間は固定化で、その後は固定化でないかも知れないから、固定化ではないと言うのか」と、2月6日の参院予算委で自民党の林芳正が皮肉ったが、普天間移設問題の状況をよく言い表している。日米秘密交渉がブルームバーグ通信にばらされ、3日外相・玄葉光一郎が明らかにした「海兵隊移転見切り発車」の日米合意は、普天間の固定化そのものである。すべての報道に先だって、2日に筆者が「民主政権による普天間移設は絶望的となった」と書いた見通しがピタリと裏付けられた。玄葉の最近の口癖は「抑止力を維持しながら、静かに協議」だが、「静かに」などという言葉が外交に使われるのは珍しい。おそらく米国務長官・クリントンから漏洩しないようにクギを刺されていたのだろう。林が「静かにとは、こそこそ隠れて、議事録をとらない、ということではないか」と指摘したとおりだ。秘密外交を象徴している。民主党政権の外交が自転車の初心者の練習のように「危ない、危ない」と言われながら転倒したのが、今回の米軍普天間移設と海兵隊のグアム移転問題の切り離しだ。
予兆は昨年秋からあった。米議会は海兵隊移転の予算を拒否し、米政府、議会の双方から陰に陽に「普天間固定化」が警告的に発信され続けて来た。12月19日から日米外相秘密交渉が始まり、13日の大統領教書発表を前にして、いよいよ猶予がならなくなって、公表を迫られたのが顛末だ。野田は、林の質問に「抑止力を維持しながら、沖縄の負担軽減を具体的に進めるために、どう知恵を出すかということ」と発言したが、知恵は米側が出したのである。今さら出す知恵があるのか。要するに、見切り発車だ。米政府にしてみれば、議会の圧力に加えて、中国の海洋進出で極東への兵力シフトは一段と切迫してきており、猶予は出来ない状況になった。大統領の一般教書では、おそらくアジア重視の新国防戦略を表明するのだろう。そのためには日米間の、のどに刺さった骨を取り除かなければならなかったのだ。
すべては元首相・鳩山由紀夫の「海外、最低でも県外」発言に起因する。それでも懲りずに鳩山は、記者団に「普天間がずっと固定化する状況にならないよう、クギを刺しておかないといけない」などと相変わらずノーテンキなことを言っているが、もう予見しうる将来普天間は固定化されるのだ。米政府が普天間継続使用のための維持、補修の経費を日本側に要求してきていることなどが、その証左だ。米側は海兵隊移設費用の日本側負担も要求し続ける方針であり、日本政府は基地移設がないまま、費用だけを分担するという結果になりそうだ。最大28億ドルの分担を軽減できるかどうかだが、どうも米側は“やらずぶったくり”の構図を描いているようだ。8000人のグアム移転が4700人になったのだからと言って、やすやすと分担の大幅な軽減に応ずるとは思えない。米側にとっては8000人が沖縄から移動することに変わりないからだ。問題は野田が「普天間固定につながることがないよう、全力で協議を進める」と、この期に及んでも依然移設を進める“ポーズ”を見せていることだ。
しかし、この発言の本質は、問題の糊塗に過ぎない。「移設断念」とでも言えば、政権は即退陣に直結しかねない。海兵隊の一部を岩国へ移駐させる案が米側から出ているが、日本側は拒否の方針だ。ここは普天間移設の“光明”を消すことが出来ないのだ。普天間移設のラッパは最後まで手放さずに、消費増税法案の今国会成立に専念できる態勢を作りたいのが本音だ。消費増税が実現すれば、一内閣一仕事で、普天間問題は次の内閣以降の課題になる、というのが野田の思惑ではないか。この結果市街地のど真ん中にある基地の危険性は、残念ながら除去されがたい方向となった。1万人の海兵隊は残留して、普天間は維持されるのだから、沖縄の負担が大きく軽減されるなどという見方は甘い。沖縄県民にとっては最悪の選択となるが、野田は未だに訪沖して県民に直接働きかけることをしない。首相周辺には移転実現を「内閣の得点」と宣伝する向きがあるというが、これこそカラスをサギと言いくるめる論理破たんだ。民主党政権は、鳩山らが自ら作った虚構の報いを自分で受ける結果となった。これを自業自得という。それにつけても、この切迫した真剣勝負の予算委質疑の中で、防衛相・田中直紀の存在が羽毛の如く軽い。その存在自体が“国難”に思えてくる。
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