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2012-02-06 00:00
2012年はソフトランディング
大井 幸子
SAIL代表
年明けから、ギリシャ国債デフォルトやホルムズ海峡封鎖といったリスクが高まった。が、じっさいは無益な衝突を起こさない、戦争をしないように、金融市場でも大きなショックを起こさないように、相互にソフトランディングを模索するだろう。「貧すれば鈍する」といった状況で、お互いの経済を叩きあっても益がないというのが冷静な判断だろう。その意味で、選挙イヤーの今年は主要国の外交など大戦略に注目したい。「大戦略」とは、地政学のタームである。国家が生き残り、優位に立ち、成長を続けるために、時の政府が国益として掲げるマクロ的戦略である。
例えば、欧州には「ユーロを守る」という大義があるという。ギリシャ危機がイタリアやスペインへ拡大すれば、無秩序なデフォルトを起こさないようECBはユーロ支援を惜しまないだろう。その大戦略を実行するプロセスをどうするか、見せ金を用意するためECBと各国中央銀行や政府との交渉や手続きには時間がかかりそうだ。ソフトランディングを模索しながら「疑似的危機」状態は2013年前半までずるずると続くと予想される。米国の大戦略はTPPに象徴される。米国は「神に選ばれた神聖な国家である」と信じ、その世界観を覇権主義という大戦略に落とし込んでいる。米国はイラクとアフガンから撤退し、ユーラシアから西太平洋まで勢力境界線を縮小しようとしている。TPPでは、中国けん制と日本経済を完全に取り込む意図がある。
イランの核兵器開発の問題については、Strategic Forecastのニュースレターによれば、イランは戦争を起こすだけの性能の高い核兵器は持っていないし、米国・イスラエルはその事実を知っているという。米国は原油の安定供給を望むし、イランもまた原油からの収入が必要だ。相互の国益を考えれば、懸命な二国は消耗戦になる戦争は避けるだろう。一方、米国の戦略が太平洋地域にシフトする過程で、イランはアラビア半島に勢力を拡大していく。米国にとって、バハーレンやGCC、サウジの東側でシーア派が勢力拡大するのは大きな不安定要因になる。「中東の液状化」がサウジアラビアに及ばないよう、米国はイランの核開発を断固阻止する必要がある。
中国もまた欧州や米国への輸出が落ち込み、経済成長を続けるためにアジア地域での勢力拡大が必須になっている。中国は「国家資本主義」を掲げ、どのような手段を使っても国として生き残る大戦略で臨むだろう。その意味で、中国経済はソフトランディングを施行するだろう。欧米、そして中国が東アジアへの権益を狙う図式から、1941年のABCD包囲網を連想するのは私だけではないだろう。ここで日本がかつて戦争の破局へ進んだように大戦略を誤り、経済成長を果たせず国家の信用を失えば、旧日本軍のばらまいた軍票のように、円も消えてしまうのではないか。各国がソフトランディングするなかで、日本が国として存続できるかどうか、日本の政治リスクが一番問われている。
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