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2012-02-04 00:00
(連載)森喜朗元首相の自民党批判(1)
酒井 信彦
日本ナショナリズム研究所長・元東京大学教授
1月13日付けの産経新聞「単刀直言」欄に自民党の元総理大臣・森喜朗氏の興味深いインタビュー記事が掲載されている。このインタビューでまず注目されるのは、森氏自身は自民党の元首相ではあるが、自民党の現状に対して厳しい見方をしている点であろう。それは、同日付けの産経新聞に掲載されている、同じく自民党の首相経験者・中曽根康弘氏の「転換への挑戦」と題するコラムと読み比べると、いっそう良く分かる。中曽根氏は、野田首相がTPPや消費税の引き上げに取り組んでいることは一応評価するものの、「すでに野田政権の退陣と民主党政権からの世変わりを望む声が胎動しつつあるので、自民党をはじめとする野党各党が衆院解散を求めて野田政権との対決姿勢を強めていくのは当然だろう」とする。
それに対して森氏は、対決の核心となる増税問題について、野田首相が「社会保障と税の一体改革」に不退転の決意で臨むと言っているのだから、「だったら自民党も話し合いのテーブルに着くべきじゃないかな。消費税を上げないと財政が立ちゆかなくなるのは明らかでしょう。それを自民党で一番力説していたのが谷垣禎一総裁じゃない。与野党協議で『さすが自民党だ』と思われる案を提示すればいい」と、対決するよりも話し合いに応じるべきだとする。また民主党内で増税に批判的な小沢一郎氏に対しては、「そもそも竹下さんを支え、細川護熙政権で増税しようとした小沢一郎元代表が、『増税反対』なんてちゃんちゃらおかしいよ」と切り捨てる。さらに、「僕はこれほど政治が劣化した元凶は小選挙区制度だと思っているんですよ」「選挙制度はシンプルな方がいい。ずばり中選挙区制度に戻せばいいんですよ」と述べるように、現在の政治の混迷を打開するには、選挙制度の改革が絶対に必要で、それには中選挙区制度にすべきだとする。ただし、私がこのインタビュー記事で最も注目したいのは、以上の増税問題と選挙制度問題に関する部分ではない。このような政治の現状に関する部分より前に、インタビューの冒頭において、自身の体験に基づく長い目で見た、自民党の歴史への批判と反省が述べられているが、それが極めて興味深いのである。
まず森氏は「僕の40年余の政治家生活で『しまった。ボタンを掛け違った』と悔やまれることが3つあるんですよ」と述懐する。その3つとは、いずれも自民党の総裁選、つまり実質的な日本の首相選びにおいて、その順序を間違えてしまったというものである。したがってこの間違いは、森氏個人のものではなく、自民党全体としてのものである。それは、昭和47年の田中角栄と福田赳夫、昭和62年の竹下登と安倍晋太郎、平成18年の安倍晋三と福田康夫、それぞれの時点において、この順序が逆であったほうが良かったというものである。この3つのうち、二番目の安倍と竹下の争いは中曽根裁定で決まったらしいが、安倍が首相にならずに亡くなったとき「安倍を先にすべきだった」と、竹下自身が言っていたと、森氏は述べている。三番目の安倍晋太郎の息子と福田赳夫の息子の場合は、安倍がなったことが、現在における自民党の人材不足の原因になっていると、森氏は考えているようだ。
ただし、最も重要なのは、一番目の田中角栄と福田赳夫のケースであろう。この選択の間違いは、自民党のみならず、日本全体の運命に、実に大きな悪い影響を与えたからである。森氏の談話には、「田中角栄さんと福田赳夫さんの壮絶なる総裁選は、大量の実弾(現金)をぶち込んだ角栄さんが制したけど、その後どうだったかな。狂乱物価に対応できず、福田さんの力を借りざるを得なかったじゃない。福田さんが先に首相をやった方が、国のためにも自民党のためにもよかったと思うよ」とあるように、もっぱら経済の面から説明されているが、ここで完全に欠落しているのは外交の視点である。(つづく)
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