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2012-01-25 00:00
(連載)オバマ政権の「アジア回帰」戦略への疑問(2)
河村 洋
ニュー・グローバル・アメリカ代表
こうした議論を踏まえたうえで、まず国防予算について述べたい。昨年の8月に通過した予算管理法案と11月の超党派拡大委員会での合意形成の不首尾によって、レオン・パネッタ国防長官には政策的に大きな制約が科されることになった。アメリカは全世界で中国、ロシア、イラン、北朝鮮、イスラム過激派テロなどの多様な脅威に直面している。また、国防支出の急激な削減によってステルス戦闘機をはじめとしたハイテク兵器の計画も縮小に追い込まれるだろう。共和党側では、オバマ氏が提案する軍部の人員と兵器の削減にミット・ロムニー氏が深刻な懸念を示している。国防をめぐるそうした議論を背景に、バラク・オバマ大統領は今年頭に新「国防戦略」を公表した。パネッタ氏が「アメリカは伝統的に太平洋国家である」と述べたことに示されるように、新戦略では中国の台頭が最重要課題である。しかし、現在は核拡散とホルムズ海峡の緊張という事態を前に、イランが最も差し迫った脅威である。こうした多様な脅威と国防予算の折り合いをつけるために、軍備管理協会のトマス・コリナ研究部長のように「核軍縮によって、国防の無駄を削減し、通常兵器をこれ以上削減しなくても済む」と主張する専門家もいる。
他方、議会では、オバマ氏の新「国防戦略」によってイラク戦争以来の両党の対立が深刻化している。国防と予算のような重要課題には、国家運営のうえでの共通の認識が必要である。共和党は、議会でホワイトハウスに戦略の修正を要求し、アメリカと全世界の同盟国の国益を守らねばならない。問題は、アメリカが国防上の重点地域を簡単な都合で選べるかである。アメリカは全世界で様々な脅威に直面している。重要地域の中でも、最も問題視すべきは、オバマ政権の中東戦略である。テロとの戦いは完了していないうえに、アラブ諸国はこれまで以上にアメリカの関与を必要としている。外交政策イニシアチブのジェイミー・フライ事務局長は「オバマ大統領はイラクとアフガニスタンの安定を脅かす過激派の無力化を成し遂げないうちに、撤退を表明したために、昨年5月のオサマ・ビン・ラディン殺害という成果を無にしてしまった。アラブ諸国が政治変動の最中にあって、この地域でのアメリカのプレゼンスの必要性が高まっている時期に、中東撤退を模索するオバマ氏はあまりに軽率である」と論評している。
2011年は、アメリカが中東で指導力を発揮できる機会を失った年になるのだろうか?中国と北朝鮮の脅威を考慮すれば、東アジアの安全保障の重要性は軽視できないが、共和党のバック・マケオン下院議員は「大統領が現在の財政事情を理由に、我が国がなすべき中東での作戦任務も完了しないうちに、アジア回帰を打ち出したことは、当惑すべき事態である」と評している。またマケオン下院議員は「小規模な軍隊がリビアから日本に至るまでの世界の危機に対して柔軟で迅速に行動できるという保証はない」と指摘する。問題は中東ばかりではない。ロシアも核戦力強化に乗り出している。ドミトリー・メドベージェフ大統領は昨年末に、長い開発期間を経たブラバーSLBMを実戦配備すると表明した。ロシアはそのうえに、今年は11回のICBM実験を行なう計画であるという。新STARTは米露関係をリセットしなかったのである。今やロシアはアメリカの覇権に公然と挑戦しているのに対し、オバマ政権はアメリカの軍事力の規模を削減しているのである。
オバマ氏が下した決断で最も議論の的となるのは、イラクとアフガニスタンからの撤退である。ジョン・マケイン上院議員は昨年12月22日のAEIでのインタビューで「アメリカが一方的にイラクから撤退した。オバマ政権は米軍の存在によってイラクの治安と政治安定への保証をもたらすことを拒絶した」と批判した。また「アフガニスタンからの米軍撤退によって一層混乱が深まる。アメリカの安全保障の傘が保証されないとなると、アフガにスタンの指導者達は反米的な近隣諸国やテロリストとの宥和への誘惑にかられるかも知れない。これが究極的にはこの地域でアメリカの敵を勢いづけてしまいかねない」とも指摘している。中東でのアメリカの役割を語るうえで、イランを忘れてはならない。カナダのスティーブン・ハーパー首相はホルムズ海峡での緊張をめぐって「世界への最大の脅威となったイランには、ロシアと中国をも含めた国際社会が断固とした対応をすべきだ」と訴えた。イランの脅威に対処するには、アラブ首長国連邦にバンカーバスター弾を供給するだけではとても充分とは言えない。米軍撤退後の力の真空を中国が埋めかねない。さらに重要なことに、アジア同盟諸国の経済は中東からの石油輸入に依存している。よって米国の「アジア回帰」はアジア太平洋地域の平和と繁栄を保証しないのである。(つづく)
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