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2012-01-24 00:00
(連載)オバマ政権の「アジア回帰」戦略への疑問(1)
河村 洋
ニュー・グローバル・アメリカ代表
オバマ政権は、軍事力の規模を削減する一方で、アメリカの国防政策の重点を中東からアジアに移すと表明した。これは全く馬鹿げている。確かに中国の脅威は急速に増大している。しかし、中国の拡張主義は東方ばかりでなく西方にも向かっている。アメリカがイラクとアフガニスタンから撤退してしまえば、中国はイランとパキスタンを通じて中東での力の真空を埋めかねない。アジア諸国が高い経済成長を続けてゆくためにも、中東の安定が不可欠なことを忘れてはならない。アジアの国々は中東から石油を輸入している。また、中国は上海協力機構を通じて中央アジアにも影響力を拡大させている。よって、アジア諸国民がオバマ氏のアジア回帰なるものを称賛するのは全くナイーブというしかない。さらに以前の本欄への投稿でも述べたように、国防費の削減はF35統合打撃戦闘機の開発計画に深刻な制約となっている。オバマ政権のF35をめぐる混乱が、同盟国にも悪影響を与えている。こうした観点から、オバマ政権の国際安全保障政策を批判的に論評したい。
この問題の全体像をつかむために、昨年12月に外交政策イニシアチブでロバート・ケーガン氏が司会を務めた「財政制約の時代に世界の中でのアメリカの責務をいかに維持するか」というフォーラムについて言及したい。その中で、ジョン・マケイン上院議員が「世界の中でのアメリカの国防と予算に関する主要課題」について述べた。即ち、同上院議員は「政治指導者達がアメリカの有権者に空母やステルス戦闘機のような最新鋭兵器への支出が必要なことを説得しなければならない」と述べた。マケイン氏は他方で「軍事産業の競争不足によって研究開発費が高騰した。そうした事態に対処するには軍部の人件費削減によって無駄な出費を抑え、アメリカの軍事力を維持すべきだ」とも述べた。東アジアの安全保障で最重要課題となっている南シナ海での中国の拡張主義に関しては、マケイン氏は「海洋の自由航行の侵害だ」と非難した。中東に関しては「アラブの春は中国、ロシア、その他専制国家ばかりか、ウォール・ストリート占拠運動に見られるように、アメリカにさえも広がってゆく」と述べている。マケイン氏はアメリカがそうした政治変動を支援すべきだと断言する。
アメリカが世界各地で安全保障の挑戦を突きつけられている中で、マケイン氏は有権者が国内経済にばかり目を奪われがちな大統領選挙での孤立主義の台頭に懸念を抱いている。マケイン上院議員は「大統領のリーダーシップこそが、有権者の間でアメリカの外交政策に課される課題と国際関与の必要性に関する理解を普及させられる」と明言する。現在の問題は、ヨーロッパの同盟諸国の国際関与が低下し、イギリスさえも2010年の『戦略防衛見直し』に見られるように、国防力を削減していることである。他方で、新興諸国はナショナリスト色を強め、欧米に対して力の競合を主張するようになっている。最後に、マケイン氏は大統領選候補者達にもっと外交政策の議論をすべきだと提言し、「アメリカのように国際公共財を提供できる国は他にない」とも述べている。
アメリカは中東での新しい政治的変化に直面する一方で、アジアでのプレゼンスを強化しなければならない。カート・キャンベル東アジア・太平洋担当国務次官は、そうした国際環境の下でのアジア戦略を語った。問題は、急激な国防力削減を行なうアメリカが、この地域での軍事的プレゼンスを持続できるかである。キャンベル氏は「アメリカの国防の重点をテロリスト相手の地上作戦から、アジア太平洋地域での海空軍の力の競合に移すべきだ。対中関係で相手の脅威に対処するにせよ、良好な経済関係を模索するにせよ、アジア太平洋諸国としてはアメリカとの強固な関係あってこそ対応できる」と述べている。キャンベル氏は米中の相互依存を強調する一方で「人権と政治的自由といった問題も、南シナ海での地政学的競合に劣らず、両国の利害が衝突する重要課題だ」とも述べている。(つづく)
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