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2012-01-17 00:00
野田発言は“小泉流”刺客擁立の脅しだ
杉浦 正章
政治評論家
独眼竜正宗のような切れ味鋭い1月16日の首相・野田佳彦の解散発言について、新聞は消費税法案での野党に対するけん制ととらえているが、果たしてそうか。折から仙台伊達藩では「新党きずな」に参加した候補に「刺客候補」を立てる話が進んでいる。むしろ野田発言は「小泉郵政解散」を意識した、小沢一郎へのけん制だろう。これ以上離党者を出さないことを狙ったものだ。そう解釈すると野田の「眼帯」まで意味深長に見えてくる。消費増税一筋にまい進する野田は、改造で岡田克也を副総理に起用、小沢一郎の神経を逆なでしたが、今回の党大会発言はかつてなく気負い立っていた。野田は「各政党に政策協議に応じてもらうよう心からお願いをしていく。野党にどうしても理解してもらえない場合は、法案を参議院に送って、野党に『この法案をつぶしたらどうなるのか』と考えてもらう手法も、ときには採用したい」と、開き直った。おまけに「『出直しをして解散をしろ』という野党に対しては、やるべきことはやって、やり抜いて、民意を問うことをはっきり宣言したい」と、解散を断言した。
問題は発言の「参院でこの法案をつぶしたらどうなるのかと考えてもらう」の意味するところだが、野田が「野党」と数回言及したにもかかわらず、野党はほとんどが早期解散を主張している。首相が解散するといえば「ありがとうございます」ということになる。とてもけん制にはなるまい。「解散求める自公けん制」(読売)の側面は極めて薄いのだ。逆効果だからだ。そこで野田の狙いが意味するところは、「野党」に名を借りた党内消費増税反対派へのけん制という解釈が成り立つ。おりから小沢は党大会にぶつけるように109人も集めて勉強会を開き、野田をけん制する動きを露骨にさせている。一部小沢グループの離党、新党結成は既に実現しており、さらなる離党も予想されている。
この状況下であるからこそ、「参院でつぶしたらどうなるのか」なのだ。野田の気負いぶりは郵政解散断行の際の小泉そっくりだ。小泉は会期中から郵政法案が否決された場合は、衆議院を解散して総選挙を行うことを明言していた。参院で否決されるやいなや解散を断行、同時に衆議院で反対票を投じた全議員に自民党の公認を与えず、郵政民営化賛成派候補を擁立することを命じた。刺客である。野田が党大会であえてこうした発言をしたのは、むしろ小沢グループへのけん制なのだ。冒頭述べたように宮城県連では刺客の話が着々と進んでおり、他の県連にも波及しつつある。新党きずなに参加した議員らは刺客を立てられれば、ただでさえ厳しい選挙情勢が絶望的となり、落選確実だ。
しかし、野田の小沢けん制には、論理矛盾もないではない。独眼竜の「視界不良」だ。増税法案を参院に送れない事態もあり得るからだ。同日小沢が109人を集めた意味合いはそこにある。109人のうち60人程度が造反すれば、法案は衆院を通過しないのだ。逆に自民党などが提出することが予想される内閣不信任案に離党覚悟で同調する動きが出てしまう可能性もある。もっともそうなれば、野田のいう参院段階での“血戦”は、衆院段階での“血戦”に前倒しになるだけだろう。まあ、いずれにしても野田が小泉そっくりに「伝家の宝刀を抜くぞ」とばかりに高揚していることは確かである。幹事長・輿石東も同日の全国幹事長・選挙責任者会議で「衆院は常在戦場の態勢を作っていかねばならない」と述べ、小沢の早期解散反対戦略と逆行する発言をするに至った。解散への流れは、イグアスの滝に向かう水流のようなもので、もう止めようがない段階に入った。野田も小沢も巻き込んで滝壺へと向かう。せめて消費増税だけは“生存”可能な岸辺にたどり着かせるべきだろう。
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