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2012-01-16 00:00
ユーロ危機の行方
池尾 愛子
早稲田大学教授
昨2011年の秋、学生から「ユーロ圏の金融危機についての論文を教えてほしい」「ヨーロッパの金融・経済問題について説明してほしい」という要望が出た。そこで、欧州政策研究センター(Center for European Policy Studies、CEPS)のウェブサイトに掲載されている諸論文を紹介した(http://www.ceps.eu/)。まずは、ダニエル・グロス(Daniel Gross)の短文「なぜヨーロッパは(アメリカより)苦しむことになるのか」(2009年7月)がやはり分かりやすいようだった。本欄で2010年1月11日と2月7日に紹介したように、彼は「金融危機の唯一の震源地はアメリカであったとは言い難い」として、ユーロ圏の住宅価格などの時系列データを提示して、「ドイツでは統一バブル、スペインでは著しい建設バブル(住宅バブルを含む)、他の諸国では住宅バブルがあり、いずれもはじけた」と分析していた。グロスの一連の論文には、ヨーロッパの住宅・建設バブルを分析するものが含まれ、2009年時点で既に将来の金融危機――東欧諸国への国際通貨基金(IMF)介入にとどまらず、ギリシャ危機辺りまで――が予想の範囲内に入っていたことが窺い知られる。正直なところ本欄で以前にこの論文を紹介した時には、タイトルの ‘Why Europe will suffer more’ を「なぜヨーロッパは(アメリカより)苦しむのか」と翻訳したものの、著者は未来形を使っていたので正確ではなかった。
グロスとアルキディ(Cinzia Alcidi)の論文「ヨーロッパ末端諸国における調整上の緒困難とデット・オーバーハング」(2011年5月)も、金融関連用語を少し確認するだけで、標準的マクロ経済学を修得していれば理解できるような平易な経済英語で書かれている。そこでは、ギリシャ、アイルランド、ポルトガル、スペイン(GIPS)が、以前は受け取っていた(流れ込んでいた)巨額の民間資金の流入が『突然停止』(sudden stop)したことから、危機が顕在化したとされる。借換(ロール・オーバー)の『突然停止』は、国内貯蓄率が低く、国外資金の短期借入依存度の高い国で発生しやすい金融危機の始まりの姿である。通常はミクロレベルの負債・資本比率(レバレッジ率)が注目されるが、著者たちはマクロ経済レベルの負債・GDP比率に視線を向け、問題国内での信用膨張の値(部門別、対米比較)に着眼したのであった。政治の問題も国内金融問題の深刻度を左右するという理由から、イタリアにも注意が払われるようになり、GIPSY5カ国が分析対象となっていた。
行間から、欧州中央銀行(ECB)は共通通貨ユーロを発行する権限を有している一方で、金融政策の権限という観点からはその裁量度は極めて低く限定されていることが窺える。共通通貨を導入して国家主権の一部を手放したものの、各国の金融制度はかなり多種多様なままであり、その規制などは各国の金融当局の権限下にあった(2011年に欧州銀行当局が誕生して、EU加盟国の銀行当局を統括することになった)。もちろんユーロに関する政策については、ECBウェブサイトを丁寧に閲覧するのが定石である。『デット・オーバーハング』は、過剰債務を抱えた企業にとって更なる投資を行うことが難しくなっている状況を指すとされ、貸し手の金融機関側からすれば債権の証券化や金融技術の活用により解消するだろうと期待されていた問題である。国際通貨・金融問題については、おそらく危機のたびに、平易な経済英語で表現された論考(や改革案)がどこかで発表されるようになっているようだ。
昨2011年11月初頭にCSPSウェブサイトにアクセスした時、トップページではEU加盟国向けの警告メッセージが踊っていた。しかし12月初頭には同ページは一新されていて、EU圏内というよりEU以外の人々に向けてのメッセージと受け取られる「EUは危機を克服する」が目に飛び込んでくるようになっていた。この間、同サイトへのEU圏外からのアクセスが増えているものと推測される。日本に目を向けて、通貨統合や金融の問題を中心に論じた、渡部亮著『改革の欧州に何を学ぶか』(1999年)を読み返すと、金融ビジネスパーソンの視点は的を射た部分がかなりあるとの感想も持ち、イギリスのユーロ採用、ユーロ圏でのイギリス型金融政策の採用が切望されていたことも改めて注意を引く。1月13日(金)にユーロ圏9カ国の国債格付けを引き下げたスタンダード・アンド・プアーズ(S&P)も民間会社である。岡村健司編『国際金融危機とIMF』(大蔵財務協会、2009年)には、2008年11月から2009年5月までにIMFに金融支援を受けた国々の表が含まれており、金融危機対応マニュアルのようにも見える書物になっている。その後もIMFから金融支援を受ける国々は増えているので、日本の当局も予想した上で対応のための準備を続けていることであろう。
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