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2011-12-26 00:00
TPP交渉をめぐる議論について思うこと
池尾 愛子
早稲田大学教授
この秋学期の授業の際に学生から出てきた要望の中に、「TPPについて説明してほしい」というのがあった。TPPはもちろん「環太平洋経済連携協定」のことで、本掲示板や姉妹団体の掲示版でも既に何度か取り上げられている。学生のことは公の場では余り書きたくないが、彼らの一部では、貿易のメリットとデメリットは何か、自由貿易のメリットとデメリットは何か、という論点が整理されて理解されておらず、議論が全く混乱していたのである。そこで、貿易をすることと、貿易を全くしないことを比較すると、貿易をする方がよい、貿易のメリットはある、というところから話を始めることになった。どこまで貿易を自由にするのか、貿易をある程度のところで制限するメリットはあるのか、あるとすればそれは何なのか、と説明を続けた。
同僚と相談しながら、学生たちには、日本政府の国家戦略室のホームページに掲載されている情報を閲覧することを勧めることにした(http://www.npu.go.jp/policy/policy08/index.html)。10月に掲載された「TPP協定交渉の概括的現況」と「TPP協定交渉 分野別状況」は必ず読むように助言した。これらを読むと、24の作業部会が設けられ、21分野にわたって交渉が進んできていることがわかる。分野としては、(1)物品市場アクセス(作業部会は、農業、繊維・衣料品、工業の3つ)、(2)原産地規則、(3)SPS(衛生植物検査)、(5)TBT(貿易の技術的障害)、(6)貿易救済(セーフガード等)、(7)政府調達、(8)知的財産、(9)競争政策、(10)越境サービス、(11)商用関係者の移動、(12)金融サービス、(13)電気通信サービス、(14)電子商取引、(15)投資、(16)環境、(17)労働、(18)制度的事項、(19)紛争解決、(20)協力、(21)分野横断的事項、である。作業部会としてはこれらに、特定分野を扱わない「主席交渉官会議」が加わる。注目すべき点として、(17)の「労働」があり、概括では「貿易や投資の促進のために労働基準を緩和すべきでないこと等について定める」と明記されていることにも注意を喚起した。
また学生たちには、アメリカ商務部のウェブサイトに掲載されている「米日経済制度調整要望書(The U.S.-Japan Economic Harmonization Initiative)」(2011年2月)にも注目するように助言した(http://www.mac.
doc.gov/japan-korea/EHI/EHI.htm)。アメリカのアジェンダとして紙幅が割かれている項目には、情報通信技術、医療機器・医薬品があり、他には、知的財産権、日本郵便、保険、透明性、運輸・流通・エネルギー、農業関係、競争政策、商法環境がある。同書に記されているアジェンダと、上のTPP交渉の現況などを対照すれば、アメリカ政府がTPP交渉で積極的に提案している項目をかなり把握することができるだろう。
「医療機器・医薬品」については、この対日要望書には明確に記載されている一方で、TPP交渉の作業部会の名称にはなっていないので、(1)物品市場アクセス、(8)知的財産、(21)分野横断的事項、などで取りあげられうるのかもしれないが、TPP交渉参加国の中での対応にかなりの差がある項目とされている。それゆえ、TPP交渉の場よりも、TPP交渉とは別の場で、つまり日米の2国間交渉の場で積極的に提案・交渉されているのかもしれない。とはいってみても、TPP交渉と日米交渉のいずれの場合でも、交渉担当者は同じであったり、同じ会議の席で2つの交渉の項目が取り上げられたりする可能性があるので、混乱しないように注意する必要がある。TPPをめぐる一般報道を調べたところ、この対日要望書を踏まえているか踏まえていないかが、報道内容のわかりやすさとわかりにくさにつながっているように感じられたので、学生たちにも同要望書の一読を勧めることになった次第である。
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