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2011-12-19 00:00
ブラジル日系人の現実が予告する日本の未来
酒井 信彦
日本ナショナリズム研究所長・元東京大学教授
産経新聞に「希望大国 ブラジル」と題する、ブラジルを取り上げたシリーズの記事がある。各部ごとに数回ずつ断続的に掲載されて来て、最近の第6部で終了するという。その第6部は11月29日から12月5日まで5回に渡り、標題に「日伯の懸け橋」とあるように、ブラジルの日系人についてである。その第1回目の内容は、なかなか衝撃的であった。世界中で日系人は300万人いて、その半分の150万人を占めるのが、ブラジル日系人であるというから、最大規模でかつ典型的な日系人社会であるといえる。ただしそのブラジル日系人社会に、現在大きな変化が起こっている。それは端的にいってしまえば、日系人社会の崩壊である。
ブラジル最大の都市サンパウロの中心部に、商店400軒が集まるリベルダージ地区という繁華街がある。そこの様子は「赤い鳥居やちょうちん形の街灯が続く街は、日本語の看板があふれる」。確かに記事に添えられているリベルタージ地区の写真には、赤い鳥居と、これも赤く塗られた街灯が並び、日本情緒に溢れている。しかし「かつては日系人街だったが中国、韓国系の店が増え、東洋人街になった。近年は中国・台湾勢が席巻して、チャイナタウンと化しつつある」。写真にはいわゆるアジア系、すなわちモンゴロイドの人間が多数写っているが、これらの人間が日系人とは、限らないわけである。だから「街で生まれ育った2世の不動産会社勤務、菊地ミエ・スエリさん(59)は『みんな日本語で書いてあるけど、経営しているのは中国人、こんなに増えるとは思わなかった』と話す」と言うことになる。
もちろんブラジル社会で重要なポストに就いている日系人もいるが、そのような高学歴の人間は2世の世代で、「2世は飛びぬけた高学歴により、平均よりはるかに高い所得を得て、各界に深く浸透していった。日系社会を離れ、ついに帰ってくることはなかった。日系社会は1世の高齢化とともにやせ細った」。このように解説するのは、「日系社会の研究機関、サンパウロ人文科学研究所顧問で、2世の宮尾進さん(81)」であるから、間違いないであろう。つまり2世が立身出世することによって、一般ブラジル社会に吸収されてしまい、1世から2世・3世・4世と連続する、纏まった日系社会が形成されなかったのである。結局、宮尾さんは次のように予測する。「日系人という意識も薄れてきている。30年もすればニッケイという言葉も消えるのではないか。だが、失われるのは言葉だけではない」。この「失われるのは言葉だけではない」とは、日系社会自体が消滅するという意味である。最大の日系人口を擁し、戦後も日本の敗戦を信じなかった「勝ち組」が存在した、ブラジル日系人社会も、現実にはここまで衰退しているわけである。
ブラジルがこのような状況であるならば、日本のマスコミでは殆ど紹介されることはないが、アメリカなどの他の日系人社会も、同様あるいはそれ以上の衰退に陥っているのだろう。だからアメリカ議会の反日決議に熱心に取り組む、マイク・ホンダ議員のような人物が、堂々と出現するのである。日系人としての意識が薄れきているということは、日本民族としての民族意識が希薄になっているということである。とすれば、これは外国の日系人社会の問題に止まらず、現在の日本社会そのものの問題である。サンパウロのリベルダージ地区の現状は、シナ人・朝鮮人が我が物顔に跋扈する、日本の近未来を先取りしたものに他ならない。
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