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2011-12-03 00:00
(連載)「犯す」発言で普天間移設は絶望的になった(2)
尾形 宣夫
ジャーナリスト
暴言は沖縄の世論を硬化させただけでない。発足間もない野田政権の統治能力を真正面から問うた。「日米関係を基軸」とする日本外交にとって、普天間移設問題の処理は、野田政権の肩に深く食い込んだ極めて重くやっかいな“荷物”である。野田首相は、9月の日米首脳会談、さらには先のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の際のオバマ大統領との会談で、日米同盟の深化を自ら約束したばかりだ。日米同盟の深化は、すなわち普天間移設問題の処理次第、と置き換えることもできる。だから野田首相は大統領に、普天間移設に絡む名護市辺野古沿岸域の環境影響評価(アセスメント)の評価書を年内に沖縄県に提出すると約束、米側の懸念を少しでも和らげようとしたのである。そこに、今回の田中暴言が飛び出した。それ故、今回の問題処理を間違えるようだと、政権交代以来、米政府が持つ対日不信をさらに深刻なものとしてしまう。だから米側の反応を見極めようと一晩待ったということだ。政権与党内に異論が多い環太平洋パートナーシップ協定(TPP)交渉参加の結論を、予定より1日延ばした手法をまた取ったのである。
しかし、田中暴言へのコメントを1日延ばしたからといって、政権にこれといった妙案があるわけではない。政権としては、環境影響評価(アセスメント)の評価書を予定通り年内に沖縄県に提出することを再度確認するしか、現段階では取るべき道はない。それが、国防総省の談話に対する返答というわけである。普天間移設問題は文字どおり袋小路に入ったと見て間違いない。確かに野田政権は、米政府の対日不信をどう解きほぐすか頭をひねった。だが、外交経験に乏しく、世界の政治舞台で人脈もない政権が唯一頼りにできるのは、米国だけである。端的に言って、米国に寄り添う以外に外交の世界での日本の身の置き所はない。独自のアジア外交といっても、米国と中国を天秤にかけるような芸当はできない。
米国の世界戦略が変わろうとしている今日、普天間移設問題は今後の日米同盟の先行きを占う重要な論点の一つである。ところが、普天間飛行場の辺野古移設が実現できると考える両国政府関係者は皆無に近い。米議会に広がる普天間の嘉手納基地統合の考えは、今後さらに勢いをます可能性が高い。 政府間レベルでは辺野古移設の日米合意を再三確認しているが、一方で米国は、対中戦略の一環として豪州への海兵隊移駐を検討中だ。そのことが沖縄駐留の米海兵隊撤退と直ちに結びつくとも思えないが、普天間を取り巻くかつてない厳しい世論の中で、日米合意を従来どおり追求できるかは、はなはだ疑わしいと言わざるをえない。かといって、普天間移設の見通しが立たないまま、普天間飛行場が現状固定となる愚は避けなければならない。日米合意が形骸化している事実を踏まえるならば、普天間移設の対象を「県外」を含めて新たな視点で考えざるをえない。政権が強調する在日米軍の抑止力は、普天間を沖縄に置くことが必須条件ではない。
米側に物の言えない野田政権に、日米合意の見直しを期待することはまず無理だろう。仮に、今回の田中暴言で沖縄県民の怒りがさらに膨らんだとしても、米側は「日本の国内問題」と突き放すだろう。野田首相も型どおりの「おわび」をしても、自ら事の重大さを認識したような行動をとろうとしない。政権トップが積極的に動いた、かつての橋本、小渕政権当時に普天間問題が前進した事実を、野田首相は思い起こすべきだ。沖縄の基地問題の複雑さを知らない現政権、特に首相に今最も求められるのは、自ら動くことしかない。玄葉外相や一川防衛相、官僚に任せる時期は過ぎた。(おわり)
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