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2006-07-17 00:00
東アジアの価値観は多様であり、共同体の設立は無理
田村 久雄
会社員
1、私は以前に会社から派遣されて東南アジアに4年間勤務した経験があり、この地域の動向には今でも格別の関心を持ってフォローしている。これとの関係で特に日頃から考えていることは、この地域が宗教的、文化的に極めて多様な地域であると言う点である。宗教だけでも仏教には小乗仏教、大乗仏教が存在する。前者はタイ及びヴェトナムを除くインドシナ半島諸国で、後者はヴェトナムで信仰されている。タイでは国王が仏教の擁護者とされ、仏教は日常生活にも深い影響力を持っている。他方インドネシア、マレイシアを中心にイスラム教がASEAN諸国全体に広がりを見せている。しかしこのイスラム教もインドネシアとマレイシアとでは対応が異なっている。インドネシアは一般的に宗教に寛容で信仰の自由があり、イスラム教と共に全ての宗教が自由に布教活動を行うことが出来る。これに対して、マレーシアはイスラム教を国教と定め、女性にはチャドル(スカーフ)を強制する等保守的な傾向が強い。2002年の9・11の同時多発テロ後の米国のアフガン攻撃対してはインドネシア、マレイシアの反応は他のASEAN諸国と比べて反対のトーンが強かったと記憶している。
2、文化的にはインドシナ半島のタイ、カンボディア、ラオス、ミャンマーはその名の如くインドと中国の文化の狭間に位置し、風俗、習慣等は双方の影響が混在している。例えばタイ語、ラオス語について文字はサンスクリット文字であるが、発音は中国語の四声に類似した音調である。同じインドシナ半島のヴェトナムは元来が中国文化圏の国であり、19世紀半ばまでは漢字を使用していた。現在の発音記号式のヴェトナム文字は19世紀後半にフランスがローマ字風に改めたものである。こうした出来事がなかったならば、同じ漢字文化圏の国同士として、日本人はヴェトナム人をより一層身近に感じたであろう。言葉についてはASEAN全域で通用する固有の共通語はない。英語が事実上の共通語になっているが、これに次いで良く通じるのは華僑、華人を中心に話されている中国語ー普通話である。
3、 更にASEAN諸国はタイを除いて欧米の植民地であったが、旧植民地時代の風俗、習慣は現在でも色濃く残っている。先ず、「異なった環境で育てられた双生児」と言われるように、旧宗主国が異ることによって、同じイスラム教ではあるがインドネシアとマレイシアは異なった世界を構成している。フイリピンは「300年のスペインの僧院時代(註:300年に及ぶ停滞の時期を指す)とハリウッド支配の100年の時代」を経て、ラテン・アングロサクソンの要素が混合した社会となっている。旧フランス領インドシナ諸国では言葉は1980年代以前はフランス語が良く通じ、現在でも60歳代以上の人は英語よりもフランス語を話す傾向にある。フランスの影響は同時に料理面にも強く残っている。
4、 一昨年以来わが国でも東アジア共同体構想が具体的に議論されているが、この共同体の中核はASEAN諸国である。単純な疑問であるが、上に述べたようにASEAN諸国間ですら宗教的、文化的、植民地時代の遺産の面で大きな差異、換言すれば大きな価値観の相違が存在するのに、これに日本、韓国、中国を加えた共同体が果たして実現するのかは、現地経験がある者の眼から見れば疑問なしとはしない。特に、東アジア共同体のモデルの一つでもあるEUがキリスト教とそこから派生する共通の価値観で纏まっていることと比較すると余計にその感を強くする。経済連携協定、自由貿易協定等の経済面での協力を進めて行けば、東アジア経済共同体ーEC型ーの実現は可能であろうが、加盟国が共通の価値観を共有することが必須であるEU型の共同体を目指すことには無理があると考える。
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