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2011-11-15 00:00
(連載)軽率な中東撤退は、アメリカの利益にならない(2)
河村 洋
NGOニュー・グローバル・アメリカ代表
アメリカが中東よりアジアを重視したからといって、中国の拡張主義が阻止されるという保証はない。中国は、アフガニスタンからの米軍撤退を機にパキスタンの関係強化を通じて力の真空を埋めようと躍起になっている。中国がパキスタンと結んだ原子力協定によって、アメリカとインドへの対抗心が明白に示されている。さらに中国は、イランに先端技術ミサイルを提供し続けており、これは国連の制裁に違反している。中国はアメリカとの間で1997年に「C802対艦巡航ミサイルをイランに輸出しない」という約定を交わしながら、これを破っている。さらに中国は昨年、イラン国内にナスル対艦巡航ミサイルを製造する工場を建設している。アメリカは先端技術兵器をイランに提供する外国企業に罰則を科すために、2006年のイラン自由化支援法と2010年のCISADA(イラン包括制裁法)を適用できる。中国がイランやパキスタンとの間で強固な関係を築きつつあることは、中東をますます不安定にしている。
中国の脅威はグローバルであり、中東諸国はアメリカのプレゼンスを必要としているので、アメリカはアジアと中東の両面で安全保障上の脅威に対処するだけの準備がしっかりとできていなければならない。よって、そうしたアメリカの国防費は、そうした二重あるは多重の要求に応えられる水準に達する必要がある。アメリカン・エンタープライズ研究所のマイケル・オースリン常任研究員は、現行の国防費削減がアジアの安全保障に及ぼす影響を論じている。オースリン氏は特に東シナ海、南シナ海からインド洋にかけての中国の海軍活動の拡大を注視している。中国海軍が急速に拡大して、アジアのシー・レーンで高圧的な振る舞うことによって、日本、ASEAN諸国、オーストラリア、インドといった域内諸国との緊張が高まっている。その結果もたらされる不安定によって、アメリカが引き続き地域安定に果たす役割が重視されるようになり、アジア太平洋諸国はアメリカとの戦略提携の深化を模索するようになっている。レオン・パネッタ国防長官は今年の10月のアジア歴訪ではアメリカの国防予算をめぐってアジア諸国が抱く不安を宥めねばならなかった。アジアのシー・レーンはユーラシアの両側を結ぶので、アジアと中東の安全保障は強く相互に関わりあっていることを指摘したい。
ワシントンでは予算に関する超党派の特別委員会が「国防費のさらなる削減を行なわないように」と要求した。ジョン・ベイナー下院議長は、「今年の夏にオバマ大統領と共和党議員との間で交わされた予算合意の要求を超えて国防支出が削減されている」と述べた。そうした中で民主党のアダム・スミス下院議員は「連邦議員達は国防支出を守るためには増収か、国防以外での歳出削減、といった代替案を示す必要があると」述べた。『ワシントン・ポスト』紙のロバート・サムエルソン経済論説員は「イラクとアフガニスタンでの長きにわたる戦争にもかかわらず、アメリカ軍自体は1980年代後半から2010年にかけて大幅に削減された」と指摘する。きわめて重要なことに、イラクとアフガニスタンの戦争で2001年から2011年にかけて国防費は増大したものの、この間の戦費の総額は$1.3兆で、同時期の連邦予算の総額$29.7兆の4.4%を占めるに過ぎない。国防費そのものが効果的で賢明な国力の行使を保証するわけではないが、必要以上の削減によって政策の選択肢が狭められる。サムエルソン氏は「現行の国防支出削減によってアメリカの軍事的優位の土台となっている高度な科学技術と質の高い訓練が崩壊しかねない」と主張する。
アジア諸国も、中東諸国も、アメリカのプレゼンスを必要としていることを忘れてはならない。中国の対イラン、対パキスタン関係に見られるように、ユーラシアの両側での安全保障の課題は独立したものではなく、相互に関連がある。また北朝鮮はイランと共に「悪の枢軸」を形成している。オバマ政権による現行の国防力削減は、アジアと中東で懸念を増幅させている。キャメロン政権によるイギリスの「戦略防衛見直し」(SDSR)から教訓を得る必要がある。デービッド・キャメロン首相は昨年10月19日の下院でのSDSRに関する演説の際に、「この見直しでは、急速に変化する世界の中で我が国がどのように力と影響力を投影してゆくかが論じられている」と述べた。リビア紛争から見ると、イギリスの戦いぶりがこの目的を充分に果たしたとは言いがたい。アメリカは政策上の選択肢を最大限に実行できるために、国防に充分な資材を投資するべきである。アメリカ自身が自らの突出した軍事的優位がもたらす国際公共財の受益者なのであるから。(おわり)
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