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2011-11-15 00:00
TPPで「対中対中包囲網」のオバマ戦略浮上
杉浦 正章
政治評論家
環太平洋経済連携協定(TPP)をめぐって姿を現した最大のポイントは、中国を意識した米国世界戦略のアジア・シフトであろう。「対中封じ込め」と、自国経済活性化を意識した一石二鳥のオバマ戦略の浮上である。日本は、主要国が雪崩を打ってTPPに参加するきっかけを作ったことになり、米国主導の形で地域の自由貿易化や経済ブロック化が進む流れへと重要な役割を果たしたことになる。しかし、あくまで米国にとっては日本の動きは世界戦略の中のワン・オフ・ゼムであろう。何と言っても今回の会議の性格を著しく象徴したのが、共同記者会見の場における米通商代表部(USTR)代表・カークと中国の商務次官補・兪建華の激論だ。兪はまず、「日本の決定はニュースで知った。日本はこれまで繰り返し、中国、韓国、日本の3カ国間の自由貿易協定など、他の地域統合メカニズムについても促進すると言っている」と日本の動きをけん制した。次いで兪は、TPPについて「いままで我々は参加について何の招待も受け取っていない。もし、招待を受ければ、真剣に検討するだろう。TPPは開かれたものであり、かつ透明であるべきだ」と不満を表明した。
これに対し、カークは「中国の仲間に言いたい。TPPは閉ざされたクラブではない。だれでも歓迎するが、招待状を待つようなものではない」と厳しいしっぺ返しを食らわせたのである。この「米中確執劇」が物語るものは、泥沼の中東や、やはり光明の見えない欧州経済危機を前にして、米国の外交・安保・経済上の世界戦略が躍進するアジア重視に大きく傾斜したことを物語る。オバマはまず首相・野田佳彦に圧力をかけて、何が何でも参加の方向へと誘った。日本が参加へ固まったと見るや、「日本も参加する」とカナダ、メキシコを説得したに違いない。環太平洋の主要国が雪崩を打った形となり、内政で問題を抱えるオバマ外交に取ってドラマチックなまでの成果となった。今後フィリピンをはじめパプアニューギニアまでもが参加の方向となり、明らかに「対中包囲網」を形成することになる。
米国がTPP推進に当たって中国に何の働きかけもしなかったことは確かだ。兪が日本の参加を「ニュースで知った」と述べていることが、それを物語る。11月15日付け朝日新聞によると、中国外務省幹部は、TPP参加国がその目指す内容の概要で大筋合意したことについても「我々には何の連絡もない。どういうものかも分からない」と不満を漏らしているという。カークの「閉ざされたクラブではない」発言とは逆に、「中国外し」による「対中包囲網」形成が着々と進んでいたことになる。やがてはGDPで米国をも追い越す勢いを見せる中国が、その軍事力を露骨に増強し、南シナ海や極東へと勢力を拡大するのを目の当たりにして、米国は現段階においてこれを強く牽制しなければならないと判断するに至ったのだ。将来手に負えなくなる巨人を野放しすることになる危険を、未然に防止する動きに出たのだ。オバマが記者会見で中国の「ルール破り」を厳しく指弾したのも、その手始めであろう。
中国外交にとっては、APEC首脳会議は頂門の一針というか、悪夢というか、手痛い打撃となった。しかしそうかと言ってTPP参加へと中国指導部がかじを切る流れには当分ならないだろう。来年の共産党大会での指導部交代を控えて、TPPへの加盟は共産党一党独裁をも揺るがしかねない危険性を帯びているからだ。自由貿易体制の確立は、とりもなおさず中国国内の諸制度改革へと波及する。だから中国は、ASEAN+3(日・中・韓)を主張して、主導権を握ろうとしてきたのだ。こうしてオバマの目指すTPPは、純粋な自由貿易の側面に、政治・安全保障上の超大国の思惑が強く作用する流れとなった。世界史を眺めても、古来通商網の整備は軍事力と密接に連結しており、オバマはその大網をアジアに掛けたことになる。総論ではオバマ戦略の勝利となったが、加盟国の利害が激突する各論に入ると、TPPも一筋縄ではいくまい。野田も、オバマ戦略に組み入れられたが、これからが「外交力」を試される正念場だ。それにつけても野田は、バスに乗り遅れる寸前で、反対派を振り切って、よく飛び乗れたものだ。マスコミの世論調査はTPP参加賛成がいずれも反対を上回った。朝日「賛成」46%「反対」28%。読売「評価する」51%、「評価しない」35%。NHK「賛成」34%、「反対」21%だ。逆に野田の支持率だけは大幅にダウンしているが、すべては“逃げ”の説明不足に起因する。
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