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2011-11-01 00:00
野田、TPP参加へじわり包囲網
杉浦 正章
政治評論家
首相・野田佳彦の本会議答弁を聞けば前向きと受け取らないわけにはいくまい。ぐらりと環太平洋経済連携協定(TPP)交渉参加に傾いたとみる。野田は「一般論として、交渉の中で国益を最大限追求することは当然のことであり、国益に合致するよう全力を尽くして交渉に臨むべきだ」と述べたのだ。たとえ「一般論」と前置きしても、この時点での発言だ。「全力を尽くして交渉」に比重がある。折から、民主党内反対派の動きも、ここにきて勢い喪失の感を呈してきた。「TPPを慎重に考える会」会長・山田正彦も、当初はスタジオジブリのアニメに出てくる“悪漢”そっくりのぐりぐり眼(まなこ)ですごみを利かせていたが、「交渉参加するなら離党する」と言っても、澎湃(ほうはい)として多数が同調する動きには発展しそうもない。ぱらぱらと同調する程度では、力にはならない。幹事長・輿石東も「そうならないようにする」と懐柔策を考えているようだ。その「考える会」もこのところ動きがぱっとしない。圧力がかかって出席者が毎回20人程度に減少しているのだ。
山田は政調会長代行・仙谷由人の「農協さんがTPP反対でわめいて走ってるが、言い募って党内合意を形成させないことを自己目的化して動いてはまずい」という発言をとらえて、辞任を求めた。しかし、けんかの仕方が“あさって”を向いていて、なっていない。仙谷の首など取っても何の役にも立たないのだ。本気でやるなら野田の首を取る動きに出なければ気迫は感じられない。仙谷も政調会長代行をやめて済むなら喜んで首を差し出すに違いない。ポイントは小沢一郎がTPPに前向き姿勢を見せており、反対の“核”が存在しないことにある。反対派には小沢に近い議員が多いが、みこしが動かなくては気勢も上がらない。何も知らない若手議員ばかりを扇動しても、しょせんは烏合(うごう)の衆に過ぎないのだ。
ニュースの出方を観察していると首相側近は、民放にリークし始めた。フジテレビ系FNNにリークして「野田首相、TPP交渉参加の意向固める」と報じさせ、TBSにリークして「首相は周辺に対し、外務・経産などTPPの交渉に関係する役所の人事を『当面凍結してでも参加したい』と漏らしている」といった具合だ。全国紙にリークすると活字が残って影響力が大きすぎるが、民放にリークするとじわじわと永田町に浸透して、地歩を占めることが出来るのだ。加えて毎日新聞によるとTPPに参加した場合のメリットと参加しない場合のデメリットについて政府は、文書にまとめて党幹部らに配布している。これによると、まず反対派の衆院議員が一番懸念する解散・総選挙への影響について、「2013年夏まで国政選挙はない」ことを前提に「このタイミングで参加を表明できれば、交渉に参加しても劇的な影響は発生しない」と分析した。つまり現段階なら参加しても任期満了選挙までには有権者が忘れてしまい争点にならないというわけだ。逆に「交渉参加を延期すればするほど選挙が近づき、決断は下しにくくなる」と強調、早期参加の必要を説いている。
また12日のアジア太平洋経済協力会議(APEC)で交渉参加を表明すべき理由について「日本が参加表明すれば、米国が最も評価するタイミングとなる」と強調。交渉参加時期を延ばしたデメリットについては「日本は原加盟国になれず、ルールづくりに参加できない。出来上がった協定に参加すると、原加盟国から徹底的な市場開放を要求される」「先に交渉メンバーとなった韓国は日本の参加を認めない可能性すらある」と警告している。傑作なのは「実現できなければ新聞の見出しは『新政権、やはり何も決断できず』という言葉が躍る可能性が極めて大きい」と書いている点だ。これは素人の見出しだ。実現できなければ「野田政権、TPPで挫折」「新政権に普天間並みの打撃」「財界先行きに悲観論、株価は大暴落」などの見出しになる。こうして、野田とその周辺による巻狩作戦の輪がじわじわと狭まってゆく形となって来た。それにつけても自民党の谷垣禎一の代表質問はお粗末だった。ここに来て、TPPで何の代案も示さず、賛否を示さないままでは、政権を追及する資格に疑問符がつくではないか。
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