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2011-10-26 00:00
見えない野田政権の外交・安保観
尾形 宣夫
ジャーナリスト
パネッタ米国防長官の来日で、普天間移設問題の迷走が一段と明らかになった。長官と会談した野田首相はじめ玄葉外相、一川防衛相は、いずれも日米同盟の深化を確認し、普天間飛行場を名護市辺野古に移設するための環境影響の評価書を年内に県へ提出する考えを伝え、米側にも普天間移設とパッケージになっている在沖縄米海兵隊8000人のグアム移転を進展させるよう、米側の努力を求めた。これは、用意されたシナリオどおりと言っていい。だが、このシナリオには何ら新鮮味がない。新鮮味がないだけでなく、野田政権の外交無策をさらけ出したようだ。長官は防衛相との会談後の共同会見で「首相らからそろって辺野古移設の評価書を年内提出すると聞かされた」と紹介、満足の意を表明した。長官来日前に三人が鳩首会議して対応を事前調整したとおり、日本側の方針を伝えたのだが、事前に打ち合わせしなければならなかったところに、政権の〝若さ〟と脆弱さを垣間見る思いだ。
だが、この日本側が約束した沖縄県への評価書提出という〝決意〟に根拠があるかというと、そうではない。野田首相は今月、沖縄担当相の川端総務相を手始めに、防衛相、外相を相次いで沖縄に送り込み、仲井真知事らの説得工作に当たらせた。ところがこの三閣僚の沖縄訪問が浮き彫りにしたのは、野田政権に対する沖縄の不信感だけだった。「日米合意の順守」と「基地負担の軽減」を型どおり説明されても、知事らは「具体的な中身がない話」には乗れない。政権として、普天間移設問題にどう取り組もうというのかがないまま、環境影響評価書の提出を公言されたのでは、肝心の地元沖縄を置いてきぼりにして、日米両政府間で話を進めるというのに等しい。なかでも沖縄側を刺激したのは、玄葉外相が言った「地理的優位性のある沖縄で日米安保をしっかり確保しなければならない」という言葉である。
沖縄側から見れば、普天間問題の長い経緯を十分理解していない新任外相の、いかにも表面的で実体がない安保論としか聞こえない。3閣僚の沖縄訪問は、長官来日にあわせた日本政府の努力を見せる米政府向けの「アリバイづくり」と言っていい。もちろん米側も難問を抱えている。深刻な財政赤字に絡めて、歳出削減の面から日米合意の現行計画を「幻想だ」とする有力議員の見方が広がりつつある。つまり、日米双方とも現行計画を進めようにも、極めて難しい問題を抱えているのである。双方とも展望がないまま現時点での〝協調〟を演じて見せ、成果を強調しなければならないのは、互いに国内向けに「背水の陣」を敷かなければならないという窮余の策ということである。先日も指摘したが、発足間もない野田政権にとっての難問は、一に大震災からの復旧・復興なのだが、外交面では「普天間移設問題」と「TPP交渉参加問題」が目の前にある。首相は9月の訪米でオバマ大統領に普天間問題の解決を念押しされた。加えてTPP問題は来月のAPEC首脳会議までに野田政権として交渉参加の方向付けで結論を出さなければならない。普天間もTPPも米国の世界戦略と切り離すことはできない。「日米関係を外交の基軸」とする野田政権が、この二つの問題で米国の機嫌を損ずることは想定できない。これらの問題は国内では賛否両論が激しくぶつかり、へたをすると政権を揺るがす恐れも十分予想される。
発足間もないとはいえ、野田政権の弱点は内政、外交面でのブレーンの不在である。あるとすれば、「霞が関」がそれに当てはまるかもしれない。財務省主導の「直勝内閣」などと言われる現実を、首相はどう説明できるのか。民主党政権が高らかに掲げた「官僚依存からの脱却」どころか、「霞が関に囲まれた政権」ということになる。普天間もTPPも極めて高度な政治判断を求めている。大震災の復旧・復興の遅れも、前任の菅政権が財政出動のタイミングを逸したことが大きい。その時の財務相は、ほかでもない野田首相自身である。明らかに財務官僚主導の路線に乗っていた。その延長線で考えるなら、普天間とTPPで野田首相に政治判断を期待するのはかなり無理がある。首相の政治理念、スタンスが明確でないことからくる不安は、政権にとって極めて重大だと言わざるを得ない。首相に求められるのは、広く周囲の話に耳を傾けると同時に、自らの政治信念を示すことである。残念ながら、今までのところそれが見えない。
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