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2011-10-25 00:00
国際経済学協会 第16回北京大会に出席して(再論)
池尾 愛子
早稲田大学教授
7月29日付け本欄に「北京で開催された国際経済学協会第16回世界大会に出席して」と題する投稿をしたが、そのときから少し時間は経ったものの、当時から懸念として残っていること、関連して気になることが幾つかあり、それらはこの政策掲示板「議論百出」で共有してよいことでもあるように思われるので、そうした事柄を書き留めておきたい。北京では、地元の組織委員会が勧めたホテルに宿泊したが、はたしてFacebook にアクセスできなかった。友人からFacebook において「新しいグループを作った」という知らせが電子メールで届いたので、すぐにアクセスを試みたが、まるでサーバが存在しないかのような状態で、アクセスができなかったのである。中国ではインターネットの利用制限が厳しいことはよく知られるようになっているが、実際に改めて体験してみるとショックは大きかった。
先述のように、大会会場では「ノーベル経済学賞の受賞者を中国から出すぞ」という強い意気込みが感じられた。アリババ・グループといえば、中国人参加者の多くも愛用するeコマース・サイトを運営しているのだが、大会ではデータ提供者としても注目されていた。同グループは、中国人経済学者がノーベル経済学賞を受賞できるようにと、蓄積しているデータベースを一部の経済学者たちに積極的に提供しているのであった。それでも、経験的(実証)研究を進めたい若手経済学者たちの経済データへの渇望には物凄いものがあることも感じられた。言うまでもなく、こうした研究手法を取ることには、アメリカの経済学者たちからの「影響」というよりも、彼らからの「支援」を強く受けているように感じられた。計量分析を駆使するアメリカ人経済学者のクリストファー・シムズ氏とトーマス・サージェント氏が、今年のノーベル賞を受賞したことは、中国の経済学者やその卵たちにも大いなる激励になっていることであろう。
一方で、世界大会の会場には、経済学を専攻する大学院生・学部生たちが混じっていたが、彼らは通貨・金融政策の諸問題、特に「人民元の国際化」に強い関心を寄せていた。人民元が国際化して、国際通貨の仲間入りを果たすためには、資本勘定の完全自由化が必要条件であるはずなのだが、相変わらず、そうした問題が棚上げにされているようなのが気にかかった。通貨政策や金融政策の効果について、シミュレーションを含めて自由な研究は果たして行われているのだろうか、とふと気にかかった。データや情報を経済学者たちに提供して、シミュレーション分析など自由な計量分析を奨励してもよいのではないかとも感じられた。
同大会の範囲を超えるかもしれないが、中国国内のエネルギー価格が上昇する国際価格に比べて低く据え置かれていることが、省エネではなく、エネルギー浪費につながっていることは、世界中の心配事になってきている。この問題についても、幾つかの妥当な想定パターンのもとでのシミュレーション分析を奨励して、導出した諸結果・予測を広く公開して、エネルギー問題を経済学的に議論することが望ましいと思われる。世界中のエネルギー資源を飲み込んでもそのうち足りなくなるのではないか、という危惧すらある。市場の価格メカニズムが需要と供給を調整する役割を長らく担ってきた分野がたくさんあることは忘れてはならない。中国では研究意欲も旺盛である。政策効果についても計量分析を実施し、その成果が公表されるべきであろう。
最後に、学問の分類、特に社会科学分野の分類が、国、地域によって異なっていることにも注意が必要である。私は招聘を受けたときのみ中国を訪問してきたが、中国では『経済史の専門家』とみなされている。資料やデータ、当事者への聴取り調査という『証拠』に頼って、経済学の国際化過程を研究してきたからだと思われる。それゆえ北京での大会に参加する際には、『経済史』で登録したのであるが、それにもかかわらず、プログラムでは『経済思想』のセッションに入れられた。同セッションの開始前に会場にいた中国人経済学者から「あなたの論文は『経済史』のものですね」と質問され、「はい、そうです。エントリーは『経済史』で行いました」と返答する一幕があった。社会科学分野の分類が国によって異なることは忘れないでほしい。このような注意を明確に記すべき時機が訪れていると感じられるのである。
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