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2011-10-19 00:00
首相、TPP交渉参加を先行、普天間は「後ずさり」
杉浦 正章
政治評論家
10月20日からの臨時国会、来月12日からのアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議を控え、野田政権の真価を問う環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への交渉参加と普天間移設の両問題がクローズアップしている。首相・野田佳彦の言動を観察すると、TPPには一歩踏み込んで、少なくとも交渉には参加する姿勢だろう。一方で、普天間移設には「前向き後ずさり」の姿勢が手に取るように分かる。17日の記者インタビューにおける発言でも、微妙なニュアンスが出ている。野田はTPPと普天間について、両方ともそれぞれ「なるべく早く結論を出す」と発言したが、その前提がポイントだ。TPPについては「広い視野で議論し」が前提だが、普天間については「いつまでと確定は出来ないが」が前置きだ。言ってみれば前向き発言と慎重発言の差が歴然としている。これを裏付けるように、TPPについては踏み込んでいる。幹事長・輿石東と示し合わせて、巧妙に党内世論をリードしようとしているのだ。
輿石は、首相が「母に背負われて稲刈りに参加した私が、日本の農業をTPPでダメにする発想を持つことは絶対にない。日本農業も世界経済の流れの中で再生し、全世界に発信していく」と述べていたことを明らかにした。野田は、最大のポイントである農家対策で、反対派をなだめようとしているのだ。輿石も「APECに行くのに、一国の総理がTPPについて『まだ検討中ですから』なんていう話はできない。日本の国を代表する総理として、一つの考えを持って行かれるようにしなければいけない」と踏み込んでいる。これが裏付けるところは、少なくとも野田はAPECにおいて「とりあえずの交渉参加表明」をすることで、国内の一任を取り付けようとしているに違いない。現在訪問中の韓国が、米国との自由貿易協定(FTA)で合意して先行している状況下において、もはや貿易立国としてちゅうちょできないという判断があるものとみられる。マスコミも読売新聞が19日付の社説で「開国へ早期参加を表明せよ」と背中を押しており、もう引くに引けない段階に入った。引けば鳩山由紀夫並みの「食言首相」となる。
一方で、やはり米上院の強硬姿勢で焦眉の急を要する普天間移設には、慎重だ。むしろ野田は時間稼ぎに出ているとみた方がよい。このところ総務相・川端達夫、防衛相・一川保夫、外相・玄葉光一郎らを相次いで沖縄詣でさせている。閣僚を訪沖させているが、TPPと異なり、自らは動かない。最近急に政府が辺野古周辺の環境アセスメントの評価書を、年内に沖縄知事に提出することがクローズアップされているが、専門家の間では9月からささやかれていた話しだ。18日にも書いたように、むしろ事務的手続きであり、これが原動力となって物事が動き出すとみるのは浅薄だ。評価書を受けて沖縄県知事・仲井眞弘多は「90日以内に意見書を出す」ことを法的に義務づけられるが、「事実上不可能で、埋め立て許可の可能性なし」と漏らしており、回答は「ノー」だろう。
仲井間は、鳩山が一昨年の名護市長選で反対派の稲嶺進を応援して当選させた時点で「移設は破たんした」と感じており、もう意固地なまでの知事の姿勢を覆すことは出来ない。それではなぜ政府がアセスに前向きかと言えば、一川が就任早々自らを「安全保障に関しては素人だ」と述べたとおりだ。確かに一川は「素人路線」を邁進している。月末には国防長官・パネッタが来日するし、野田はオバマとの会談で「沖縄の理解を得るよう全力を尽くす」と早期解決に言及した。一川は、ポーズというか、アリバイづくりというか、その類いのものをしなければ、と焦っているのだろう。見え見えなのだ。朝日新聞が19日付の社説「展望なき一手の愚かさ」で、火を噴くように批判している。「すでに辺野古への移設は事実上無理だ。それでも手続きを踏んでいくやり方は、沖縄県民だけでなく、米国政府に対しても不誠実だ」と主張し、「鳩山政権時代の愚を繰り返してはならない」とまで言い切っている。確かに野田は、いまさら馬鹿げた子供だましのような手続き論でしのげると思わない方がよい。「素人病」の伝染には要注意だ。
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