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2011-10-14 00:00
与野党は中選挙区導入で政治を抜本改革せよ
杉浦 正章
政治評論家
小選挙区制になってから、どうも政治が姑息で矮小化し、浅薄な劇場型に陥っていると感じてきたが、その選挙制度改革の与野党協議そのものまでが、定数是正への矮小化でお茶を濁そうとしている。ところが、この定数是正は次の総選挙には間に合いそうもないのだ。背景には衆院解散をにらんだ与野党の思惑があって、いわば世論向けに“いい子”になろうとしているだけなのだ。「村会議員も驚くほど低レベルの“チルドレン”に左右されない中選挙区に戻すべき」との意見は、自公両党にもあるが、この際、その方向で制度の抜本改革に踏み切るべきであろう。木を見ずして、森を見るべきだ。与野党が現在行おうとしている制度改革は3月の最高裁の一票の格差が「違憲状態にある」とする判決を受けたものだ。ここにきて与野党間に定数是正の高まりが見えてきているのは、別に司法から言われたからではない。定数是正で司法が何を言おうと、首相の解散権は制約されないと言うのが内閣法制局の戦後一貫した解釈で、これは定着している。
問題は、その解散への思惑だ。政府・与党側は現段階での解散は不利だとして、出来るだけ伸ばしたいと考えている。特に小沢一郎の戦略がそうだ。小沢にしてみれば“風”で当選させたチルドレンが皆落選して、自らの存在感が一挙に希薄になるのを、出来るだけ先に延ばしたいのだ。だから側近の内閣官房参与・成田憲彦に「1票の格差」是正について「衆院小選挙区の新たな区割りが完成するのは、おそらく来年5月、6月以降だ」「1年間周知期間を取れば、衆院解散は2013年にならないとできない」などと発言させているのだ。首相・野田佳彦自身も、まだ解散で勝てる自信がない。したがって民主党は、「違憲判決が出かねないので衆院選には踏み切れない」ことを当面金科玉条に掲げて、一票の格差是正に精力を傾注している姿を、国民の前に見せようとしているのだ。与野党協議中の解散要求ならば、「現在話し合っている最中」としてはねつけられる。一方、自民党は、これとは正反対に、一票格差の問題に早くけりを付けて、解散要求へのフリーハンドを確保したいのだ。ここで奇妙にも民主、自民両党の思惑が定数是正の早期処理で一致する。
しかし、ここで重要なことは、例え与野党が政府の区割り勧告期限である来年2月までに定数削減案で合意、法案を成立させても、成田の言うように周知期間が1年必要なことだ。「一票の格差に縛られる」という判断ならば、解散できるのは再来年の8月の任期満了に限りなく近づいてしまうのだ。一方で、政治の実態の方は政局ハネムーン期間が過ぎれば、解散がいつあってもおかしくない状況に突入する。定数是正は間に合いそうもないのだ。要するに、与野党がやろうとしていることは、世論対策だけが目当ての無駄骨ということになる。そのような姑息な対策をすべきではない。いま政治が着手すべきは、現行の小選挙区比例代表並立制の抜本改定である。同制度は自民党が案を作って橋本内閣の1996年の総選挙で実施に移され、以来これまで5回実施されたが、メリットより弊害が目立つ。かつて自民党時代に旗振り役の後藤田正晴が各社政治部長を招いて選挙制度改革について意見を聞く機会があって、筆者も出席した。その際の後藤田の理論は「中選挙区による派閥の弊害」に絞られており、筆者は「派閥の弊害もあるが、小選挙区では政治家が小粒になる」と反対したものだ。後藤田は「それでもやらねばならぬのだ」と押し切ったが、さすがの後藤田も大局を見誤った。政治家と言うより、優秀な官僚であった。
今の政治の状況を見るがよい。名前も聞いたことのないようなチルドレン政治全盛ではないか。小泉がチルドレンを当選させれば、小沢がチルドレンを当選させる。区会議員より少ない票で当選してくるから、政治・外交の見識など関係ない。そのときの風があればよいのだ。従って、政治家が極めて小粒になる。すぐに落選するから、大物政治家や外交・安保の大局が分かる政治家に育つ暇がない。「安保ってなんだ」と言いそうな政治家ばかりで、国の外交・安保が右往左往する。制度の弊害はそれだけではない。民主党の小選挙区、比例区の合計の得票率が44.9%であるにもかかわらず、議席は308と3分の2に迫ったのだ。これでは死に票が多すぎて、民意が反映されない。民意が反映されていないのに政権は鳩山由紀夫と菅直人のように民意反映と誤解、または曲解して、「何でも出来る」とばかりに政治をねじ曲げる。現行制度は危険きわまりないと言うしかない。自民党内や公明党には自党の利害もさることながら、国家を愁える立場から中選挙区制へ戻すべきとの意見も根強く存在する。戦前の小選挙区制も、すぐに中選挙区に戻っている。この機会を捉えて、制度の抜本改革へと道を進めるべきだ。
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