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2011-09-23 00:00
ソウルにて西大門刑務所歴史館を見学して思う
池尾 愛子
早稲田大学教授
今年1月にソウルを訪問して、日本に留学経験のある人たち、私と似たような世代の人たちに、韓国と日本の若者たちの交流を進めるにはどうすればよいか、相談に乗っていただいた。その時いろいろと助言をいただくことができ、9月半ばに、日本の若者たちを伴ってソウルを再び訪れることができた。1月の訪問時にも今回の訪問の際にも異口同音に強調されたのが、『国際交流のためには歴史を知ることが最も大切である』ということであった。若者たちの交流を越えて、『ビジネスでの交流を進めることになるならば、歴史、文化、宗教を知ることが大切である』ということも、韓国の人から日本の若者たちに直接語られた。日本人から言われる以上に、日本の若者たちの心に響くものはあったようだ。
1月にいただいた助言に従って、西大門刑務所歴史館(ソデムン・ヒョンムソ・ヨクサクァン)の見学も計画に組み込み、実施した。ソウル市内の地下鉄3号線を利用して、独立門(トンニンムン)駅で下車して、斜面の途を登ると、元刑務所の塀が間近に見えてくる。日本語パンフレットには、「近現代期、韓民族の受難と苦痛を象徴した西大門刑務所を保存展示している博物館」とある。その通り、韓国の独立運動と解放後の民主化運動の闘いの軌跡を辿ることができる。日本の若者たちの心には、特に『植民地時代の歴史の重み』がずっしりと圧し掛かったようだった。
ただ、西大門刑務所歴史館では、以前の施設を単に保存展示するだけではなく、年季の入ったような外観をもつ施設が新たに建設されたように見受けられた。それだけではなく、敷地内に昔あった施設を再現するべく、さらに増設が進んでいることが気にかかった。『自由と民主主義を擁護するための闘いはまだ続いている』ことを象徴するためであろうか。『自由と民主主義を擁護する闘いを止めると、以前の抑圧的社会が復活しうる』ことに警鐘を鳴らしているのであろうか。西大門刑務所歴史館を見学した後、日本の若者たちは、日本に留学経験のある韓国人によるセミナー講演に聴き入り、そして韓国の同世代の若者たちとの自由な交流を楽しむことができたようだ。「日韓の若者たちの自由な交流」はどちらかといえば、韓国側からの提案であった。こうした状況をみると、旧刑務所施設の増設が進んでいるのは、日本との関連ではなさそうだとの感触を持つことになる。しかし、施設の現状や増設状況だけを見ると、逆の印象が生まれる可能性もあるので、少なくともなぜ増設しているのか、その理由は気掛かりで、知りたくなる。
もちろん歴史は認識されるべきであり、共有されるべき歴史は共有されるべきである。さらに現実も把握され、将来の見通しも絶えず立てられなければならない。1997-8年の東アジア通貨危機が伝染して、韓国経済は大きく変わり、それから10年以上経ってみると、経済分野を越える大変化が起きていたと言ってよい。韓国の人たちは、首都ソウルを「ニューヨークとワシントンが合わさった都市」と特徴づけるようだ。私たちのソウル滞在中にも通貨ウォンはじわりと下落を続けていた。その影響は太平洋を越えて来るものとみなされているようだが、近隣諸国にも経済的変化を呼び起こしつつある。東アジアではかつてない大きな構造変化が起こっているような感触をもった。もちろんそれを示すにはデータが必要であるが、それも近いうちに出てくるのではないだろうか。また東アジアの将来のためには、若者たちの自由な交流を促進することが大切だと思われる次第である。
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