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2011-08-22 00:00
(連載)民主主義を脅かす米国政治におけるドミニオニズム現象(1)
島 M. ゆうこ
エッセイスト
9・11後から米国政治が変様してきた特徴のひとつに、宗教が色濃く現れるようになったことが挙げられる。7月5日掲載の拙稿で、「ジョージ W. ブッシュほど、宗教の権利を常に唱え、個人の信仰心を政治に活用したいと願望した政治家は、歴史上存在しない」と引用したことがあった。米国は政教分離が原則の国であるはずにも関わらず、保守派のキリスト教信者である政治家が、政治における宗教の重要性を、直接的・間接的に表現する傾向が顕著になっており、ブッシュ氏に続く動きを展開させている。宗教を基盤にした政治理念とは、「キリスト教の権利」を主張し「神が定める法律」、つまり聖書の規律を何よりも重んじる思想であり、究極の目的は、キリスト教国家の成立を目指すことである。現在では、マイナーな動きであるが、1990年代初期から除々に注目されるようになったドミニオニズムと呼ばれるこの現象は近年、顕著になりつつある。
8月18日の『ニューヨーク・タイムス』紙によると「米国のキリスト教信者の1000人中1人さえ、ドミニオニズムが何であるかを理解しているかどうか不明である」とし、2012年の大統領選に出馬を公表した共和党候補者の中に、ドミニオニズムの動きを代表する過激なドミニオニストが数名存在することをほのめかし、「狂ったキリスト教信者」と表現している。数ヶ月前までは大統領候補の一人として注目されていた、元アーカンソー州の知事で南部のバプテスト〔洗礼施行者〕であるマイク・ハッカビー氏は、「キリスト教の権利」運動を公に展開し、アイオワ州で400名近い教役者をホテルのダンスホールに集め、「宗教の権利を活性化させる努力を行った」と4月2日の同紙が報じた。このキャンペーンでは、「男女間の結婚、胎児の人権、および小さな政府での神権」を強調する演説が行われた。「小さな政府の神権」とは、宗教のリーダーが政治を牛耳ることを意味する。
1990代年初期からドミニオニズム台頭に関する研究に取り組み、1997年に『Eternal Hostility』を出版したジャーナリストのフレデリック・クラークソンは、ドミニオニズムの特徴として、「キリスト教徒の国家主義を支持し、アメリカの民主主義の根源であるエンライトメント(啓発)を否定し、宗教の至上性を促進し、他宗教の平等性を軽んじる」などを例にあげている。クラークソンは、「キリスト教の権利」を主張するリーダーの一人に、元アラバマ州最高裁判所長官ロイ・ムーアなどの大物が存在することを明記している。ムーア氏は、2000年11月、モーゼの十戒の記念碑をモンゴメリーの裁判所に設置し、その後、連邦地区裁判所判事による取り外しの命令を拒否したため、辞職に追い込まれている。その後「神の法律は国の礎であり、我々全員の法である」との思想を根底に、裁判官、弁護士、法学生らに「聖書の規律が米国の法律と憲法の基盤であることを流布するためのセミナーの開催を準備している」と述べている。前ブッシュ大統領やムーア氏など、連邦および州政府の要職にある人物を含め、「キリスト教の権利」を主張するキリスト教信者には共通した歴史上の重大な誤認識があることに気付く。彼らは、アメリカ合衆国建国の父たちは植民地時代からキリスト教信者であった、かのような錯覚にとらわれている。これが、歴史的に「米国はキリスト教国」であると主張する人達が大多数存在する一因になっている。
しかし、18世紀の英国生まれの革命家トーマス・ペインはその有名な著作『The Age of Reason』の中で、「18世紀の中頃は、人々はほとんど理神論者であった」述べている。また、バージニア州の『ウイリアム&メーリ大学』によると、40年間米国宗教の歴史を研究しているディビッド・ホルムス教授も「建国の父は元々理神論者であった」とし、初代大統領のジョージ・ワシントンについて、「彼がキリスト教徒以外の何者でもないと考える事は間違っている」と述べている。また、三代目のトーマス・ジョファーソンについては、「キリスト教の三位一体説には同意せず、一神のみを信じたが、単に独立宣言の著者に過ぎず、聖書に記載されている全ての奇跡論は排除して宗教を考えていた」と述べている。また、五代目のジェイムス・モンローについても、「信仰は個人的問題であると考えており、宗教の事を語ることはほとんどなかった」とし、トーマス・ペインの論説を支持している。(つづく)
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