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2011-08-22 00:00
これでは「小沢支配」のための代表選だ
杉浦 正章
政治評論家
まるで昔の吉原で「格子女郎」の流し目を見ているような“おぞましさ”を感ずるのが、民主党代表選挙だ。全候補が小沢一郎に「秋波」を送っているのだ。だいたい秋波とは、楚々たる美女が送るもので、太った男やマッチョマンがやっては薄気味悪さが先に立つだけだ。それも相手は名だたる刑事被告人だ。これでは、やっと菅直人という北条氏が滅びたかと思ったら、民衆にとってもっと悪い足利氏が登場するようなものだ。もう誰が首相になっても「小沢院政」となる可能性が強く、口々に小沢の党員資格停止処分の撤回を言う候補らの“ふがいなさ”は極まった。こうした空気を敏感に察してか、小沢の一の子分の参院議員会長・輿石東は8月18日、小沢が起訴されたことなどとんと忘れて、「推定無罪の原則から言って、裁判所の判断が出る前に処分すべきでない。新しい代表の下で、党員資格停止は凍結なり、解除なりすることが望ましい」と宣った。起訴されて裁判が始まってもいない段階でのこの発言は、増長も甚だしい。どの政党でも起訴されれば、議員は辞職や離党するか、党からの処分を甘んじて受けるのが常である。輿石の主張とは逆に、判決の“推定有罪”を考慮してのことだ。李下に冠を正さずが政治道徳の基本だ。国民は、代表選候補らが刑事被告人に媚びを売って首相を目指す代表選挙を、古今東西で始めて目にすることになる。同じ刑事被告人でも、田中角栄は少なくとも離党したうえでの影響力行使であった。
驚いたことに代表選候補らは、その李下に冠を正して、瓜田に履(くつ)をいれてしまった小沢への、公然たる「擦り寄り」を始めたのだ。「号泣万里」こと経産相・海江田を始め、馬淵澄夫、小沢鋭仁などが次々に小沢を訪れ、ひれ伏した。さすがにひれ伏すのは、これまでの小沢批判からいって体裁が悪いとみたか、言葉で媚びを売るのが、財務相・野田佳彦だ。「小沢先生は依然として政局の中心にいる。希有(けう)な存在であり、すごい力量のある方だ」と臆面もなく言った。党員資格停止処分についても、「自分が、仮にしかるべき立場になったら、今までの経緯を踏まえ、よく事情を聞いたうえで、対応したい」と、ギリギリ最大限「処分の凍結か、解除」に接近した。野田ですらこれだから、海江田や泡沫の馬淵や小沢(鋭)に至っては、「代表になれれば、すぐにでも解除する」ような発言を繰り返す。小沢グループ内に支持基盤がある農水相・鹿野道彦も、全く同様に小沢すり寄り路線だ。立候補がはっきりしない前原誠司も、去る5月に小沢と渡部恒三の合同誕生会の呼びかけ人となっており、最近では小沢の覚えめでたい感じとなっている。
要するに、小沢は20年前の悪名高き自民党代表選以来の「小沢詣で」と同じことをやろうとしているのだ。1991年当時49歳の若さで竹下派・経世会会長代行のナンバー2の地位にあった小沢は、会長・金丸信から総裁選に出馬するよう指示されたが、心臓病と年齢を理由に固辞。その首相にあえてならなかったことを背景に、小沢は候補者・宮沢喜一、渡辺美智雄、三塚博らを事務所に呼びつけ、“面接”して、「経世会支配」と「剛腕小沢」を印象づけたのだ。「生意気の極み」と故福田赳夫が漏らした言葉を覚えている。今の民主党内の状況は、20年前のコピーと言ってもよい状況に立ち至った。その小沢戦略はどうかというと、“じらし戦術”に出るだろう。小沢は8月18日、「今、誰かを支持すると言っても、相手側を結束させるだけなので、決定は直前になるだろう」と漏らしている。この場面は、態度を明確にせずに候補者をじらせば、じらせばじらすほど、小沢の立場は強くなるのだ。小沢グループ120人に鳩山グループの30人を加えた勢力を“競り”にかけて、“高値”がつくのを待つのだ。
それにつけても、この滔滔(とうとう)たる「小沢院政復活」に向けての動きを、全国紙などのジャーナリズムは、戒めるどころか、はやし続けているのは、どうしたことか。8月20日付の朝日新聞にいたっては、2面トップに「代表選、主役は小沢氏」との見出しをでかでかととったのには、驚いた。さすがに読売は、22日付の記事で問題視し始めたが、社説で取り上げた全国紙はいまだに1紙もない。菅が滅びて有り難がっていると、国の政治がまたまたとんでもない邪悪なものに取り憑かれることになりかねない。自民党政調会長の石破茂が20日「何で小沢氏の問題がチャラになるのか。このように『数』を頼むようなことがあってはならないとして、民主党が誕生したのではないか」と悲憤慷慨しているが、自民党にとっては、“敵失”ほどありがたいものは無い。民主党は誰が首相になっても小沢支配の下では、2年前の栄光を取り戻すことはあり得ない。一方で、小沢が前に出ればでるほど、総選挙は自民党にプラスだ。ここは旗幟を鮮明にしていない前原あたりが立候補するなら土性骨を示すべき時だが、その度胸があるかどうか。
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