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2011-08-02 00:00
それでもイスラム過激派は極右より大きな脅威である
河村 洋
NGOニュー・グローバル・アメリカ代表
島・M・ゆうこ氏が7月26日付けの本欄への投稿で「テロの脅威に関して、世界の政策形成者達がイスラム過激派ばかりに気をとられているが、キリスト教徒やユダヤ教徒の極右への対策も必要である」と主張されたことには同意する。アンネシュ・ベーリング・ブレイビクがノルウェーで起した7・22殺戮事件は痛ましいものである。しかし、私は安全保障の観点から見ると、キリスト教徒やユダヤ教徒の過激派や白人至上主義者といった極右よりも、イスラム過激派の方がはるかに危険だと考える。よってテロ対策がイスラム過激派を中心として練り上げられることは当然と思われる。もちろん、イスラム教徒への差別と偏見には断固として抗議しなければならない。なぜイスラム過激派の脅威が極右より大きいというのか?以下の3点に言及したい。
第一には、組織の規模と国際性が挙げられる。イスラム過激派の場合は、組織が国際的で、しかもグラスルーツに膨大な支持層の拡大がある。また、イスラム過激派同士の相互のつながりもある。それに対して極右の場合は「我が国を守る」という視点から過激な愛国主義をマニフェストに掲げているために、国際的な連携はあまり見られない。また、国家による支援の有無の違いもある。イランがレバノンでヒズボラを支援していることは、非常によく知られている。その他にもイラク南部やアフガニスタンのテロリスト達もイランの支援を受けている。これに対して国家の支援を受けている極右テロリストはほとんど皆無である。
第二に、その国にとって敵か味方か、すなわちジョージ・W・ブッシュ前米大統領がイラク戦争前の演説で述べた
“With us, or against us”という観点の有無を忘れてはならない。イスラム過激派は、先進国を敵と見做し、敵であれば一般市民の殺戮は当然で、さらに敵が誇る象徴的建造物を破壊するが、極右は自国至上主義なので、敵の観念がなく、味方への破壊行為には抑制がかかる。
第三には、大量破壊兵器、特に核兵器の使用の脅威を挙げたい。これは第一および第二の問題点と相互に深く関わってくる。テロリストへの核不拡散は現在の安全保障では最重要課題の一つである。かつてカーン・ネットワークは、イラン、北朝鮮、リビアの他にアル・カイダともつながりがあったと見られている。イスラム過激派はこうした国際ネットワークとの関係を持ちやすいが、極右勢力は自国至上主義の性質から「悪の枢軸」への仲間入りは困難である。
上記3点に基づいて考えれば、極右の脅威には警察が対処すれば済むが、イスラム過激派の脅威には軍事力の対処も必要だということになる。やはりイスラム過激派の方が極右よりはるかに大きな脅威なのである。ブレイビク事件はあまりに痛ましく、イスラム教徒をはじめとしたマイノリティーへの偏見はなくされねばならない。この意見には強く同意する。しかし、政策当局者がその対テロ対策の重点をイスラム過激派から極右へと移動させるというのであれば、それは間違っている。
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