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2011-07-26 00:00
「テロリスト即イスラム教徒」と結びつけがちな風潮に対する警告
島 M. ゆうこ
エッセイスト
7月22日に、ノルウェーのオスロで発生した爆破とウトヤ島で起きた射撃の連続テロは、当初「単独の犯行である」と逮捕されたアンネシュ・ブレイビクは供述していたが、本日になって「共犯者がいる」ことを匂わせている。本日までの死者及び負傷者数は、メディアにより大きく異なる数値が報告されているが、大半の死者はウトヤ島で開催された労働党キャンプに参加していた十代のまだ若い世代であったことが、益々その悲劇を強調している。ノルウェーは比較的国土が狭く、平和を維持していた国であるだけに、国民のショックは大きい。ブレイビクはキリスト教原理主義者、反イスラム教主義者であり、自国の民主主義、多様文化の政策、および移民政策に政治的不満を抱いているようだ。今回のテロ事件は、テロリストが政治的に右派過激思想の傾向が強く、イスラム教徒にかぎらずキリスト教原理主義者もテロリストになり得ることを、改めて明確に示している。また、キリスト教とイスラム教の宗教的紛争を意識した側面があることも窺がえる。
昨年10月6日に本掲示板に掲載された拙稿の「グローバール時代のテロリズムを考える」で、最も一般に解釈されているテロリズムの定義は「一般市民を巻き添えにすることによって、恐怖感を煽り、暴力で政治的改革を要求する個人又はグループの破壊行為」であると記載したが、ブレイビクは過激な政治思想を持ち、そのテロ行為は、まさにこの定義に匹敵する。また、ブレイビクが爆破物に化成肥料の窒素源として、硝酸アンモニウムと燃料油を混ぜた硝安油剤爆薬を使用した点でも、過激派であった点においても、1995年4月、ティモシー・マクベイがオクラホマ市の連邦政府の建物を爆破し、約170名が死亡したテロ事件とほぼ類似した性質がある。マクベイもブレイビクも白人市民であり、政府の内外政策に反対し、反ユダヤ主義者であった。いずれも、キリスト教の背景を持ち、右派の過激思想家で国内で根付いたテロリストである。
本日の『ワシントン・ポスト』紙によると、ブレイビクは1500ページにも及ぶ日誌をウエッブに掲載していたことで、今回の襲撃は数年前から計画していたらしい。5月1日から編集した日誌には、爆弾を製造する手段から綿密な「大量殺人」の準備と計画に至るまでを詳細に記載し、「ヨーロッパの多様文化に対して、キリストの十字軍を遂行する」と述べている。拘束後「イスラム教からヨーロッパを救うため行った」とし、無実を主張している本人は、「多様文化思想は、ヨーロッパの文化、伝統、同一性、全キリスト教徒、及び国家そのものを脱構築するために企画された、反ヨーロッパ的な憎悪イデオロギーである」と述べており、「人種と宗教に異常なまでの妄想がある」と伝えている。ノルウェーに限らず、イギリスをはじめ、移民に寛大で多様文化を標榜するヨーロッパ各地で台頭する、右派の過激思想、人種偏見、および国家主義は、反グローバリズムを挑発した政治的不安定要素になっていることが懸念される。
米国が「テロリズムに対する戦争」を開始した2001年以後、テロリズムをイスラム教徒に結びつける風潮が強くなっているが、実際は、欧州連合諸国で発生するテロリズムはほとんどイスラム教徒とは無関係である。今年、ヨーロッパ警察が発表した『EU Terrorism Situation and Trend Report: TE-SAT 2011』(欧州連合諸国のテロリズムの状況と傾向性に関する2011年の報告)によると、2010年にヨーロッパで発生した249件のテロリスト攻撃のうちイスラム教徒が関与した事例はわずか3件である。また、『FBI:テロリズム2002-2005』の報告書によると、1980年から2005年までに米国で発生したテロリズムは合計318件となっており、年代順のリストをみても、過激派のイスラム教徒に関連したテロの発生は、9・11のアルカイダを含めてわずか3件である。むしろ、件数としては、ユダヤ防衛同盟など、過激派のユダヤ系グループの犯行の方がイスラム系より圧倒的に多い。このような事実に反し、イスラム教徒はテロリストのレッテルを貼られやすいが、キリスト教信者やユダヤ教信者がテロ行為に関わると、ただ単に狂人として片付けるところにテロリズム認識のずれがある。今回の事件は、犯人が、白人のキリスト教信者であったことから、テロリスト即イスラム教徒と結びつけがちな風潮に警戒を発している。
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