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2011-07-19 00:00
(連載)現地情勢から遊離した米軍のアフガニスタン撤退(2)
河村 洋
NGOニュー・グローバル・アメリカ代表
戦略の他に、意思決定過程も批判的に検証されるべきである。6月28日に開催された上院軍事委員会の公聴会で、デービッド・ペトレイアス陸軍大将の後任としてアフガニスタン現地司令官に就任するジョン・アレン海兵隊中将が「オバマ大統領の当初の撤退計画は公表されたものよりも大規模であった」と証言した。マイケル・マレン統合参謀本部長も、ペトレイアス大将も、来年の戦闘シーズンの最中に撤退するという計画には反対した。アフガニスタンでは戦闘が可能な気象条件がそろう4月から11月にかけてゲリラ活動が活発化する。そうした理由から『ウィークリー・スタンダード』誌のスティーブン・ヘイズ上級編集員は、軍首脳の助言に対するオバマ氏の態度を批判している。これより先の6月初頭に、ゲーツ国防長官(当時)は「アメリカ軍がアフガニスタンとイラクに全面的に関与してゆくべきだ」と述べている。
オバマ大統領は、なぜこうした助言に充分な考慮を払わないのだろうか?オバマ氏の決断に大きな影響を与えているのは、ジョセフ・バイデン副大統領である。バイデン氏は、オバマ氏に対し「軍部の意見は、アル・カイダの打倒、タリバンによる政権奪回の阻止、そして治安の改善という目的を越えている」と語った。バイデン氏が言うように「アフガニスタン駐留米軍は、大規模な兵力よりも、攻撃目標を絞った小規模部隊にすべし」という意見が強まる背景には、長年にわたるオバマ氏とカルザイ政権との確執とオサマ・ビン・ラディン殺害事件がある。また、バイデン氏は、イラクから予算にいたる広範な政策課題でオバマ氏の信頼を高めている。オバマ氏の決断には戦略上の必要性よりも、ホワイトハウスの政局とアフガニスタンとの二国間関係の方が大きな影響を与えている。
共和党側にも問題はある。『ワシントン・ポスト』紙とABCニュースが6月初頭に行なった世論調査では、アメリカ国民の4分の3が、何らかの兵力削減を望んでいるので、共和党の大統領候補達もアフガン戦略では意見が割れている。ティム・ポーレンティー元ミネソタ州知事がオバマ氏の計画を批判したのに対し、ミット・ロムニー元マサチュセッツ州知事は「戦費の再検討が必要だ」と述べている。2012年9月までに33,000人を撤退させるという大計画と戦争に乗り気でない世論に対し、7月に入るとジョン・マケイン上院議員、ジョセフ・リーバーマン上院議員、リンゼイ・グラム上院議員が共同で「撤退への反対」の意を述べた。3人の上院議員達は、タリバンとの交渉に成功の見込みがあるとは信じておらず、撤退計画によって敵が勢いづくだけだと主張する。
こうした政治家や将軍達の批判を受けて、新任のレオン・パネッタ国防長官は、アフガニスタンを訪問してハミド・カルザイ大統領と会談した際に、オバマ氏の計画を再確認した。テロとの戦いに関しては、パネッタ氏は「アル・カイダの勢力は弱まる一方で、テロリストの指導者に絞った攻撃によってアメリカは勝利できる」と言う。他方で、パネッタ長官は、新たなテロの根拠地となっているイエメンへの注目を訴えた。広く議論されているように、予算と来る大統領選挙の影響は大きい。しかし、ホワイトハウスの政局や中東政治変動の全体像にも充分な考慮を払う必要がある。大統領の意思決定過程において、こうした諸要因は、アフガニスタンでの戦略の合理性以上に重要な役割を果たしている。(おわり)
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