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2011-07-13 00:00
(連載)南スーダン独立の意味と課題(2)
六辻 彰二
横浜市立大学講師
そして、第2に、南スーダンの独立が、アフリカ全体に及ぼすインパクトです。アフリカ諸国の国境線が19世紀の西欧列強による植民地支配の区画に沿うものであることは有名です。1993年にエリトリアが独立しましたが、この場合はエチオピア帝国時代の領土からの独立であったため、厳密には西欧植民地主義の遺産との決別ではありませんでした。南スーダンの独立は、植民地支配の遺産に修正を迫る、初めてのケースだといってよいものです。その意味で、かつてセネガルの初代大統領レオポール・サンゴールらが唱えた「アフリカの主体性」を体現した、まさに世界史的な出来事とも評価できるのです。
ただし、一方で南スーダンの独立は、他のアフリカ諸国政府にとって、必ずしも歓迎しにくい側面があります。多くの国では、かつてのスーダンと同様、宗教やエスニシティによる社会的亀裂があり、なかには分離独立運動を展開する勢力を抱える国もあります。カメルーンでは、旧イギリス領の地域に、旧フランス領地域中心の政府への不満が根強くあります。南スーダンの独立は、これらの勢力をインスパイアする格好の材料となります。したがって、南スーダン独立を契機に、アフリカ中でエスニック、あるいは宗教対立が激化する可能性も否定できません。
第3に、そして最後に、南スーダン自身の「スーダン化」の可能性です。スーダンで社会的亀裂があったように、南スーダンもまたエスニシティや宗教において単一ではありません。したがって、新生南スーダンが今後、従来の多くのアフリカ諸国と同様に、(多くの場合は人口で多数派を占める)特定のエスニシティを優遇する国家になった場合、「南スーダンからさらに分離独立を求める勢力」が出てこないとも限らないのです。際限のない分裂を回避するためには、単純に頭数で選挙結果を競う民主主義でなく、エスニシティごとに議席や官職を配分する権力分有(power sharing)をはじめとする、アフリカ的アレンジが不可欠です。
既存の国境線を維持することは、独立期の1960年代以来、アフリカ各国政府間で合意されてきた大前提でした。しかし、「主権・領土の尊重」という原則が、外部から介入されない「独裁者」の支配を蔓延させる温床になった側面も、否定はできません。そして、各国の「独裁者」によって冷遇されたエスニシティや宗教勢力が分離独立を求める、というサイクルを生んできたのです。その意味で、今回の南スーダン独立は、植民地主義の遺産と決別するステップであると同時に、独立以来のアフリカにおける国家のあり方を再検討し、新たなモデルを構築するための、大きな一歩となるといえるでしょう。(おわり)
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