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2011-06-30 00:00
(連載)ゲーツ国防長官退任の意味するもの:財政規律か国防予算か(1)
河村 洋
NGOニュー・グローバル・アメリカ代表
アメリカの国防政策は、財政規律によって、アフガニスタンからの撤退を迫られる中で、岐路に立っている。本日退任するロバート・ゲーツ国防長官は「アメリカは、世界の警察官の役割を担い続け、NATO同盟諸国も防衛面での貢献を拡大して、21世紀の新しい安全保障課題に対処すべきだ」と明言した。レオン・パネッタ次期国防長官への職務継承を前に、ゲーツ氏は5月24日にアメリカン・エンタープライズ研究所でアメリカの国防政策の全体像を述べている。
ゲーツ長官は、このイベントで「アメリカは、財政上の制約があっても、国防力を維持すべきだ」と主張した。ゲーツ長官の演説の基本的な前提条件は「世界を侵略者と独裁者から守る究極の保証はアメリカのハード・パワー、すなわち軍備の規模、戦闘力、そして行動範囲だ」ということである。ゲーツ氏は「アフガニスタンとイラクでのテロとの戦いに勝利を収めることが重要だ」と強調する一方で、「米軍は、その兵器体系と組織を変革して、新時代の脅威により効果的に対処すべきだ」と説いている。ゲーツ氏は「国防支出は経済に悪影響を与えていない」と信じているが、政治の現状はペンタゴンにも予算削減を迫っている。今日では脅威の性質が複雑で予測しがたくなっているが、自由諸国は冷戦期のような強大な敵の軍事力に直面はしていない。政治および財政の制約と軍事的要求の矛盾を克服するために、ゲーツ氏はアメリカの国防の将来を決定づける要員として、優先順位、戦略、そしてリスクを挙げた。
ゲーツ氏は「アメリカは同時に2つの戦争を戦う必要があるので、その軍備は大規模でなければならず、小規模な軍隊などは、どれほど効率的であっても用をなさない。アメリカは中国とロシアに対する優位を維持するばかりでなく、ヒズボラのように国家アクターよりも優れた装備を持つ非国家アクターの軍事力にも対処しなくてはならない。よって小規模で効率的な軍事力などは意味をなさない」と述べ、演説の総括として、国民の間で高まる厭戦気運にも言及しながら、世界平和を維持してゆくうえでの「アメリカの特別な役割」を強調した。世界の中でのアメリカの役割に鑑みて、『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙など保守派のメディアは、オバマ大統領が冷戦期にはGDPの7.5%を占めながら今や3.5%まで下がった国防費をさらに削減しようとしながら、ヨーロッパ諸国並みの健康保険制度の導入をしようとしていることを批判している。
同紙は、他方でそうした「小アメリカ主義」に抵抗したゲーツ氏を称賛している。ジョン・ボルトン元国連大使はさらに「アダム・スミスは『国富論』で『他国からの暴力と侵入から社会を守るという主権国家の第一の責務を達成する手段は、軍事力しかない』と述べている」と主張する。アメリカン・エンタープライズ研究所、ヘリテージ研究所、外交政策イニシアチブによる共同プロジェクトでは「世界の警察官」というアメリカの役割を考慮し、レオン・パネッタ次期国防長官に公開質問状を送っている。最も重要な質問は、ゲーツ長官が述べた「私は長年にわたり、そして今でも、国防予算がどれほど巨額でも一国の財政の懸念材料となることはないと信じている」そして「小規模な軍隊がどれほど優れていても、行動範囲は狭まり、実行できることも少なくなる」という見解を、パネッタ氏も共有しているかというものである。新たな脅威としては中国とイランが挙げられている。最後にパネッタ次期長官に対し、「アラブの春」以前に計画が練られたアフガニスタンとイラクからの撤退の再検討を求めている。(つづく)
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