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2011-05-11 00:00
与野党は、復興のため今こそ「通年国会」を目指せ
杉浦 正章
政治評論家
「首相の座にしがみつくことだけが目標の人」とは、元官房長官・武村正義の名言だが、首相・菅直人の言動は全て“唯地位論”で説明が付く。「今国会を6月22日で閉じて、復興のための第2次補正予算案提出は、8月下旬の臨時国会」という方針も、自らの地位保全のための“逃げ菅路線”に他ならない。一刻も早く復興に着手するための財源手当が、3~4か月遅れることになる。「復興に命を賭ける」という菅の発言は「保身に命を賭ける」と訂正して貰いたい。口先とは逆に、あえぐ罹災者が目に入っていないではないか。人道的にも許されない国会空白化の夏休み方針だ。筆者はかねてから菅が通常国会を6月22日で閉じると予測していたが、いよいよ具体的になって来た。菅自身は5月10日、延長につながる2次補正の国会提出を「白紙」としたが、周りは「延長なし」で固まっている。というか菅が固めさせたのだろう。
国会対策委員長・安住淳は9日、会期延長について「延長は考えていない」と述べるとともに、第2次補正予算案に関しては「早ければいい、という話ではない。復興構想会議や地元自治体の議論を見ながら対応すべきだ」と述べ、今国会での処理を見送り、次期臨時国会に先送りする方針を明らかにした。ところが安住は5日には「今国会中になんとか1次、2次と連続的にやるべきだ」と述べたばかりである。これは、同日官房副長官・仙谷由人が会期延長を否定していることから、政権内部で調整がなされたのは明らかだ。なぜ避難者が11万人も避難所であえいでいる時点で 、国会だけ早々と「店じまい」できるのだろうか。背景には、冒頭指摘したように、ひとえに菅の保身がある。一つは、20兆円に達するとみられている2次補正財源のめどを立てられず、追及から逃れるため。二つは、与野党にある「菅降ろし」から身をかわすためである。この「自分あって、被災者なし」の方策をどうやって成し遂げようとしているかだが、そういう知恵だけは達者だ。
もっとも、筆者に見抜かれるようでは淺知恵だが、まず菅は、復興構想会議の答申と「税と社会保障の一体改革」の結論を6月末に設定した。同月22日の会期切れをわざわざ越えての設定は、当初から「会期延長せず」の意図があった。とくに、復興構想会議議長・五百旗頭真は、おそらく菅のいいなりに、復興税を冒頭から提唱しており、答申も菅の目指すであろう国債発行と消費税による償還を軸にしようとしているのだろう。この“自ら作ったお墨付き”を得た上でないと、20兆もの復興財源を確保出来ないとみたのだ。かって田中角栄は「国会議員は毎月給与を貰っているのだから、国会も一年中開いておくべきだ」と、通年国会論を主張したものだ。海外では日本のような議会の会期制はほとんど用いられていない。アメリカやイギリスでは会期は1年単位であり、ドイツやフランスは下院議員の任期中が1会期である。会期で区切る方が異例なのだ。支援してくれている諸外国が「日本は、国会が夏休みに入ったそうだ」と知ったら、あきれるのではないか。菅は自らの歳費の6月からの返上を発表したが、まさか田中流思考に配慮したものでもあるまい。政治は今こそ通年国会を目指すべき時ではないか。
当然野党は「無慈悲な自己保身」を突くべきだろうが、優柔不断な自民党総裁・谷垣禎一では心許ない。わずかに問題点をとらえたのは、参院自民党幹事長・小坂憲次だけだ。「被災地は復興が軌道に乗ったと言える状況にない。国会を閉じるというのは、とても考えられる状況ではない」と批判している。もっともこの「逃げ菅」路線はそう簡単ではない。だいいち2011年度予算執行の裏付けとなる特例公債法案が成立しなければ、内閣は責任を取って総辞職すべきものであろう。予算の執行が滞るのでは、内閣の存在意義がなくなるわけだ。当然野党はここを突く。そして参院の問責決議を先行させるか、衆院に不信任決議案を提出するだろう。また復興基本法案や閣僚増員のための内閣法改正案も内閣の命運を左右する法案だ。これらの法案を、会期延長なしに通すことはきわめて難しいと見なければなるまい。したがって、会期延長をめぐる綱引きが今後始まるが、自己保身と看破されては「延長なし」は容易ではあるまい。まさに政治の道義的責任が問われる事態だ。
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