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2011-04-07 00:00
したたかなフランスの“原発どさくさ商戦”
杉浦 正章
政治評論家
新聞・テレビの論調は“純情”にも「地獄に仏」とフランスの原発事故協力を歓迎しているが、なぜフランスがすり寄ってきたかは、分析していない。そこには原発国際商戦でのしたたかな勝ち残り戦略が濃厚に見られるのだ。廃炉にすればするで、「フクシマ」には長期にわたって1兆円規模の「廃炉ビジネス」がころがっている。また廃炉に至るノウハウは、フランス原発の世界展開にまたとない情報源だ。どさくさ紛れの商戦が衣の下から見えみえなのである。最初フランスは、事故をチェルノブイリ型と判断したようだ。だから、事故直後に本国から成田、伊丹空港に空軍輸送機2機を差し向け、フランス人約1000人を一時帰国させた。その後、過剰反応とひんしゅくを買い、大使が陳謝したが、そのあとの展開が素早かった。もともと日本嫌いと言われていたサルコジの来日だ。まず半国営原子力企業「アレバ」のCEO・ロベルジョンを来日させ、翌日には訪中の帰途自ら日本に3時間立ち寄った。うちひしがれていたときの賓客に、日本国民は歓迎ムード一色だった。
こうした動きに、新聞では朝日が社説で「諸外国の知恵を借り、その好意を成果に結びつけたい」、読売も「原発大国の支援で危機克服を」と、何の疑いもなく、もろ手を挙げての歓迎ぶりだった。ことは人道に関わることだから、それはそれでよい。しかし「原子力ルネサンスの旗を降ろしていないフランスの狙いは別にある」と業界関係者は分析している。同筋によると、「フクシマはフランスにとっては宝の山だ」というのだ。まず廃炉だ。一部にチェルノブイリと同様にコンクリートで固める「石棺」説があるが、専門家の間では、チェルノブイリの「石棺」は亀裂が生じて、放射能漏れが発生しているといわれ、逆効果となりうると指摘されている。だいいち巨大な「国辱的モニュメント」を国土に残しては、精神風土上も日本没落の原因になりかねない。福島県としても、県内に「原発の墓場」を抱えることになってはたまらないだろう。「石棺」などは論外中の論外だ。ここは手間暇掛けても、段取りを踏んで除去するべきなのが常識だ。
そのために必要な時間と費用は、スリーマイル島事故で20年間、1600億円かかっている。単純計算しても、4基廃炉ならその4倍、6基廃炉ならその6倍で、1兆円産業となる。実は、フランスは原発事故で利益を上げてきた過去があるのだ。スリーマイル島原発事故の事故処理に関わったほか、チェルノブイリ原発事故では、廃炉作業を仏企業連合が受注している。アレバにしてみれば「フクシマ」の廃炉への参加ができれば、願ってもないビジネスチャンスである。加えて、より重要なポイントがある。フランスはサルコジが日本での記者会見で言明したように、原発推進政策を転換する方針はとらない。もちろん原子炉輸出も推進する立場だ。フランスは、事故がチェルノブイリ規模に達しなかったことから、一時的に原発反対の世界世論は高まるものの、エネルギー事情や温暖化対策でふたたび原発推進のムードは回復すると読んでいる。日本は、首相・菅直人が自らベトナムへの原子炉売り込みに成功したように、フランスの最大のライバルであった。そのライバルがずっこけて、原子力産業は当分立ち上がれないとみているのだ。その間隙をぬって東南アジアや米国への売り込みを強めるというのが業界の一致した判断だ。
原発強化のためのノウハウは「フクシマ」に山積しているのだ。まず地震のないフランスでは知りようがないノウハウは津波被害の実態だ。津波災害への対策と免震構造は、地震の被害が頻発する東南アジアへの売り込みには不可欠の材料だ。加えて廃炉の処理方法だ。世界中で老朽化した原発の廃炉計画が進み始めており、アレバはこれに参画しようとしている。さらに汚染水の処理、作業員の被ばくの傾向と限度など、自国の原子力産業の発展育成のためには不可欠の材料であろう。逆に日本の原子力産業が「フクシマ」でノウハウを得て、不死鳥のように立ち上がっては、フランスは太刀打ちできない恐れもある。少なくとも情報レベルを同等にしておく必要があるのだ。アレバが「フクシマ」にロボットを土産に持ってきても、その見返りは莫大(ばくだい)なものとなり得るのだ。このように国際関係というものは盾の両面があり、日本人はフランスの協力を単純に喜んでばかりはいられないのだ。
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