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2011-03-21 00:00
(連載)「平成の開国」以上の意味をもつTPPの真価(2)
高峰 康修
岡崎研究所特別研究員
米国のオバマ政権は、昨年以来、アジア太平洋回帰の傾向を急速に強めている。昨年8月には、ハノイで行われたARF(ASEAN地域フォーラム)の閣僚会議においてクリントン国務長官が、航海の自由、南シナ海での領土紛争の多国間での解決支持などを打ち出す、画期的な演説を行った。これは明確に中国を念頭に置いたものである。クリントン長官の演説は主に安全保障の文脈からなされたものだが、米国の関与は、軍事的なものであれ、経済的なものであれ、アジア太平洋地域の安定と平和にとって不可欠なものである。米国がアジア太平洋地域において経済的利益を得ることができれば、アジア太平洋地域の平和と安定は米国の国益ということになるのだから、軍事的コミットもついてくることになる。
我が国は、アジア太平洋をリードする国の一つとして、米国がこの地域に深く関与するように誘導すべき存在である。TPPは、その手段としても有用であるはずだが、現状では日本よりも米国の方がTPPに対して積極的である。鳩山前政権は、米国抜きの「東アジア共同体構想」を示唆して、米国との関係を大いに損ねる要因を作った。TPPを日米が車の両輪となって推進することができれば、日米関係の修復にも寄与してくれるであろう。今年1月に開かれたTPPに関する日米事務レベル協議では、米国は日本側に対して早期のTPP交渉入りを要請している。これは、日米でTPPを主導していこうという、米国からのメッセージである。こういったチャンスを逸するべきではない。
我が国は、6月までにTPPへの参加の是非を判断するというスタンスをとり続けている。その結果、我が国は、昨年12月に開かれた第4回TPPラウンドに、議決権を持たないオブザーバーとしての出席すら拒否されている。この会合では、今年11月に交渉妥結を目指して極めて実務的な話し合いがなされた。我が国の姿勢がはっきりしないため、「社交ではなく、交渉の場である」として参加を拒まれたのである。そして、日本は個別の国に対してTPPに関する情報提供を要請する形となっている。これでは、TPPを主導するどころではない。一方、今年2月に第5回TPPラウンドがチリで行われたが、チリ政府当局は、今年11月を目指していた交渉妥結の時期が来年にずれ込む可能性があることを示唆した。これは、日本にとって貴重な猶予期間となる可能性があり、何としても逃すべきではない。
ところで、菅首相のTPPは「平成の開国」という空疎なスローガンは、TPP参加の本質は我が国の積極的な外交政策のツールの一つである、という重要な観点から目を逸らさせる一因となっているように思われる。「開国」などと位置づけるから、農業問題が過度にクローズアップされ、「TPPに参加すれば日本の農業は壊滅する。農業を守るためにはTPPに断固反対する」という議論が出てくる。しかし、これはいささか的外れで、TPPに参加しなくてもこのまま放置すれば日本の農業は衰退し壊滅する他はない。また、WTOの交渉でも農業問題は避けて通れない。いずれにしても農業改革は必要不可欠だが、民主党政権の農家への戸別所得保障は単なるばら撒きであり、農業改革には何の役にも立たない。菅首相は、もはやレームダック化しており、TPP早期参加といった力強い政治決断を下せないであろう。それ以前に、TPP参加の真の意義をよく理解しているとは到底思われない菅氏が、TPP参加を決めてしまうことが適切なのかどうか、大いに疑問である。ここは、新しい強力な内閣の下で、仕切り直すのが望ましい。その際には、TPPを「開国」と位置づけるのではなく、TPPの真価はアジア太平洋地域の国際政治的紐帯強化にあることを明確にする必要がある。(おわり)
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