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2011-02-09 00:00
人類共通の緊急課題は、フード・セキュリティ対策だ!
川上 高司
拓殖大学教授
昨年末からアルジェリアでは食品の値上がりから国内暴動が頻発して、治安が悪化している。インドとパキスタンの間では「玉葱」紛争が起こった。パキスタンがインドへの玉葱を輸出禁止にしたため、インド国内での玉葱の価格が高騰した。インドは報復として、トマトなどのパキスタン向けの野菜の輸出を停止、今度はパキスタン国内で野菜の価格が高騰した。今や世界の食料は、グローバル化と食料危機によって外交の「手段」や国家崩壊や紛争の「火種」となりつつある。
世界的に食料は危機的状況になりつつある。その要因は様々であるが、今までと異なるのは、食料危機の原因が需要と供給の双方にある点であろう。需要から見れば、最大の要因は人口増加と新興国の台頭である。世界人口は2009年には68億人を超えた。2050年には91億人を超えると予測されている。91億人の飲み水や食料はいったいどれくらい必要なのか、想像もつかない。さらにライフスタイルの変化も大きい。中国は生活水準の向上に伴って、食料消費量が増加し、世界の食料を飲み込んでいる。たとえば、中国の豚肉年間消費量は世界の44%を占め、野菜類は47%を超える。今後は中国だけでなく、インドやブラジルなどの新興国も同じような状況になっていくと考えられる。
別の分野での需要増が、意外にも世界の食料危機を増長させている。アメリカはオバマ政権になってから、環境問題対策と石油依存脱出対策として、エタノールの開発に力を注いできた。その結果アメリカでは、かなりの量の穀物がエタノール製造へと転用され、自動車の燃料となっている。貴重な食料を自動車と人間が取り合う構図は、滑稽を通り越して、もの悲しい。供給側の問題もある。紛争や内戦などの人為的な原因は、当然供給量を減少させる。古来から天候不順は危機の大きな原因だが、昨今は災害も、経済もグローバル化しているので、ダメージも大きい。昨年の猛暑で、ロシアでは森林火災が起こり、穀倉地帯を直撃、パキスタンでは100年に一度の大洪水が、穀倉地帯を襲った。中国では黄砂による被害が年々深刻となっている。地球温暖化で海面が上昇すれば、バングラデシュやベトナムなどの低地にある穀倉地帯が失われる。世界的な水不足が、深刻なダメージを農業に与えていることも事実である。工業の発達と人口の増加、生活レベルの向上によって、より多くの水が都市部で使われるようになると、水は農作物にまで供給されない。
だが、希望もある。品種改良や淡水化などのハイテクを駆使することによって、農作物の生産性を高めることがきる。これは日本の得意分野である。世界は今から食料危機に直面するであろうが、日本の技術を生かすチャンスでもある。逆にいえば、食料自給率がきわめて低い日本は、食料が「外交手段」と化す時代においては、フード・セキュリティ戦略を立てないとひとたまりもないのである。
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