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2010-09-30 00:00
(連載)日本国家のメルトダウン(2)
袴田 茂樹
青山学院大学教授
ただ、国家間関係として一般的に言えば、主権問題で対峙した場合の行動としては、中国の行動はある意味で当然である。中国は尖閣諸島に対して東シナ海のガス田問題や経済圧力で対応し、これに対して日本政府は「次元の異なる問題」として不快感を示した。このこと自体が、日本の主権問題への認識の甘さ、あるいは無知を示している。中国側は、国家主権に関わる真剣勝負である以上、文字通りこれは戦争と同じで、あらゆる手段を動員して対応するのは当然のことだと考えている。クラウゼヴィッツや毛沢東を持ち出すまでもなく、政治と戦争は同じ次元の事柄と考えられているのだ。
では、日本としてどう対応すべきだったのか。逮捕の時点で、その後の中国側の強硬な反応を予想すべきであったし、それに対する対処法や決着の仕方も十分練られていなければならなかった。もちろん、日米安保条約の実効性も問われるし、中国海軍出動の可能性にどう対応するか、米軍との緊密な連携の下でそのシミュレーションも徹底して行う必要があった。そこまでの覚悟や準備がないのであれば、尖閣諸島上陸者に対してかつて行ったように、国内法による裁判手続きに入る前の強制退去も次善の策として考えられる。しかしこれも金正日の長男金正男の不法入国時の対応と同じで、政治配慮の超法規的措置であり、本来あってはならない対応だ。現政権の主権問題への音痴と中国への幻想、その結果安全保障と日米関係を疎かにしたツケがこういう深刻な形で回ってきているのである。
どの国においても、主権問題には譲れない一線がある。したがって世界は、「粛々と国内法で対応」と宣言した日本政府は、相応の覚悟があると受け止めたはずだ。ところが日本は屈服し中国の要求どおり無条件釈放した。尖閣諸島を中国領と認めたに等しい。ニューヨーク・タイムズが「日本の屈辱的退却」と、また韓国の連合ニュースが「日本、中国の圧力に白旗」と報じたのも(9月24日)当然だ。日本に陳謝と弁償まで要求してきた中国は、盗っ人猛々しいと言いたいところだが、中国側の論理を通せば、首尾一貫した行動だ。
船長を超法規的措置で釈放したので、つまり日本が「大人の態度を示した」ので、日中関係は最悪の事態に陥るのを免れた、との見解がある。これは完全に間違いだ。実際には、日本には国家としての戦略も主権を守る決意もなく、国家の体をなしていないということを世界に示しただけである。そして、今後20-30年では再起不能なほど、対中威信だけでなく国際的な威信も失った。傲慢な姿勢を示した中国は一時的に国際批判に配慮しても、今後ますます日本に対して、また近隣諸国に対しても、尊大な態度で臨むだろう。ある中国通の国際問題専門家は今回の事件で、政府首脳は「万死に値する」と述べた。日本にとって最大の悲劇は、日本の首脳たち自身が、国家主権に関するリアルな認識を欠いていること、そして国家のメルトダウンを、この事態に至ってもまだ自覚していないことだ。
この事件の起きている最中、ロシアのメドベージェフ大統領が訪中し、中国と「歴史の歪曲は許さない」との共同声明を発表し、ロシアは中国と歴史認識、領土問題で共同歩調をとった。大統領は北方領土を訪問すると発表し、前原外相は「日露関係に重大な支障が生じる」とロシア大使に述べたが、日本外交の真価が問われている。(おわり)
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