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2010-09-29 00:00
(連載)日本国家のメルトダウン(1)
袴田 茂樹
青山学院大学教授
原子炉の事故で最も深刻なのはメルトダウン(炉心溶解)だ。比喩的に国家に関して言えば、主権問題で最悪の事態に陥ることを国家のメルトダウンと言ってよい。今回の尖閣諸島問題こそ、まさにそれに当たる。日本の国家主権が溶解したのである。
尖閣諸島近海で巡視船への衝突事件を起こした中国漁船員に対し、島を実効支配し日本領と主張している日本政府は、船長を逮捕し「国内法に従って粛々と対処する」と声明した。日本領である以上、これは当然の対応だ。ただ、中国は中国領だと不当な主張を1970年頃からするようになっていたので、日本の宣言が意味することは重大である。主権問題で日本は中国と勝負をすると世界に宣言したことになるからだ。咄嗟に私の頭をよぎったのは、強烈なチキンレースが始まったが、日本政府にその覚悟と練られた戦略があるのか、との思いである。本来は日本に正当性があり絶対に優位だが、主権問題である以上、中国も国家の「核心」問題として国を挙げて対応することが予想された。
結果的に判明したことは、日本政府には事態の重大さの認識も解決法の見通しもないまま勝負を宣言し、しかもチキンレースを始めたことすら自覚していなかったということだ。日本政府は、日本側が大騒ぎをしなければ事務的な「公務執行妨害」で静かに処理できると、信じられないほど甘く見た。しかし結局、脅しに屈して起訴を諦め超法規的措置によって船長を釈放した。首相や官房長官は、那覇地検による「日中関係を考慮した決定」と発表した。国家主権に関わる最重要の政治決定を検察に委ねた形にすること自体、たとえ虚構であれ絶対あってはならないことだ。どうしても弁解したいなら「首相が下した超法規的措置」というのが、これも法の否定だが、まだ潔い論理だ。これらのこと自体、日本の首脳が主権問題に、つまり国家間の真剣勝負に如何に無知で無責任かということを示している。領土とか領海といった主権問題は、国家存立に関わる炉心問題であり、劇薬だとの認識がまったく欠けていたわけだ。
中国政府は、島は中国領なので直ちに無条件で釈放せよと要求した。その後、中国側は政治問題に関して経済圧力をフルに動員し、日本は次々と冷徹に繰り出された中国の圧力に愕然とし屈服した。中国はさらに、船長を釈放した日本に謝罪と賠償まで求めてきた。問題解決のための首脳会談は、日本側が求め中国が拒否した。つまりすべてが主客転倒している。もちろん、謝罪と賠償も本来は日本が求めるべきことだ。
これを日本側は、中国が冷静さを失い「きわめて過剰な反応が連鎖的に続いた」と見た。これも主権問題というものに対する、そして中国に関する無知を曝け出すものだ。中国が日本政府の予想を遙かに超える傲慢な強硬姿勢に出たのは事実である。しかし、中国の対応は、国家意識の希薄な民主党政権や脆弱化した日米関係、そして中国国内の政治情勢を見据えた極めて冷徹な計算づくの行動であった。もちろん中国の国内情勢も関係しており、胡錦濤政権は強硬派の軍に対して弱く、対日姿勢も軟弱だと見られている。したがって、軍や国民の不満を抑えるために、敢えて強い姿勢を出した側面もある。(つづく)
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