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2010-09-23 00:00
(連載)中国天津での国際シンポジウムに出席して(2)
池尾 愛子
早稲田大学教授
私の発表テーマは、昨年に続いて金融問題となった。今年のテーマは「1997年東アジア通貨危機と2008年アメリカ金融危機の比較」で、今年最初に届いた会議案内にあった論点一覧から拾い上げたものであった。IMFの介入、非介入という大きな相違がある一方で、金融機関が流動性不足に陥って危機が広がっていく様子は共通している。1997年危機では、タイ、フィリピン、インドネシア、マレーシア、韓国と通貨危機が伝染して、韓国までもIMFパッケージによる支援を受けることになり、国内財政・制度改革などの極めて厳しいコンディショナリティを課されたことは、韓国や日本ではよく知られている。「韓国ではこれを『IMF危機』と呼んでいます」と韓国の研究者からコメントされると、その厳しさが改めて伝わってくる。マレーシアがIMFのコンディショナリティの受入れを拒否して、通貨危機を財政出動で乗り切ったと主張されていることを紹介すると、分科会出席者からどよめきが起ったが、その理由はよくわからない。
2008年の金融危機では、アメリカはマクロ経済政策だけではなく、『取引による政策(Policy by Deal)』と呼ばれる方策も採用していたことを強調して、本欄(1月10-11日、2月7日、9月1-5日)に投稿した内容を中心に発表した。これは2008年当時のヘンリー・ポールソン米財務長官の回想録『崖っぷち(On the Brink)』(2010)と矛盾していないことも言い添えた。そのうえで、この危機の原因には、米政府支援法人の住宅金融会社ファニーメイとフレディマックおよびサブプライムローン(信用力の低い人向けの住宅ローン)という因子が含まれており、これらは全く新自由主義的ではなく、むしろ正反対の因子であることを強調した。つまり、2008年金融危機の原因を新自由主義だけに求めることはできない。
会議発表の域を出るが、新自由主義的ではない因子あるいは新自由主義に対抗する因子が制度の中に存在する場合、市場がどのように作用するのか、あるいは、そうした対立因子が市場の作用に影響を明示的に及ぼすまで、どのくらいのあいだ潜伏しうるのか、は市場参加者によって判断が異なり、これ自体が大きな不確実性因子になるといえる。会議に戻ると、それでも「アメリカ金融の効率性」=「収益性の高さ」は中国では垂涎の的となっているようだった。2007年あたりまで、その収益の高さは住宅価格の上昇に支えられていたことは強調したが、それだけでは納得のいく説明とはならなかった。
他のセッションでの発表になるが、東アジア・モデルといえば、多少古い重化学工業化モデルのほかには、もっぱらトヨタ・モデルばかりが中国人の発表で注目されていたのは、当地への進出企業のせいもあるのだろう。海外で学んだ計量分析ツールを利用した発表、証券市場の制度分析、日本の教育審議会に注目する発表もあった。コメントはしたが、時間の制約があり、どれほど伝わったかよくわからない。しかし、昨年のコメントは発表者には覚えてもらえていた。9月11日夜には天津の河辺の夜景を眺める機会があり、会議終了後の12日午後、会議場周辺を散策する機会があった。天津では幾つかの観光スポットが見事に整えられてきていて、大型バスを連ねてやってきている大勢の中国人観光客たちとすれちがった。ふと日本で観光旅行の大衆化が始まった時期のことに思いが及んだ。それは大正時代のことであり、全国に展開しつつあった鉄道を利用してのことであった。(おわり)
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