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2010-09-22 00:00
「日本を試す中国」への譲歩は無用だ
杉浦 正章
政治評論家
さすがに老練な外交官の言葉は違う。元米国務副長官・アーミテージの「中国は(領有権問題で)どこまで許されるのか試そうとしている」との発言が、この問題を的確に言い当てている。逆に都知事・石原慎太郎の「やくざがやっていることと同じ」との感情的非難は、事態を増幅させるだけで、何の役にもたたない。この政治家が都知事止まりで良かったことをつくづく感じさせる。それにしても中国漁船衝突事件を次々に拡大してゆく中国の態度は、理不尽であり、スタート早々の菅内閣に最大の外交上の試練をもたらした。しかし石原流に偏狭なナショナリズムで憤っても、問題は解決しない。軽々な譲歩はせずに中国得意の慢々的 (まんまんでー・ゆっくり待って)の関係修復も時にはよいだろう。ここは腹を据えてかかるときだ。尖閣諸島問題は日中間に刺さったトゲだが、過去の中国の政治家は、総じて棚上げ論であった。周恩来と田中角栄の国交樹立交渉では「小異を残して、大同につく」と対処した。日中平和条約締結に際して副首相・トウ小平は「こういう問題は一時棚上げしても構わない、次の世代はわれわれよりもっと知恵があるだろう。みんなが受け入れられるいい解決方法を見出せるだろう」と棚上げを明言した。
今回の事件で、トウ小平の言う「知恵のある次の世代」はがらりと態度を変えた。全国人民代表大会幹部の訪日延期に始まって、東シナ海のガス田開発に関する条約締結交渉の延期、閣僚級交流停止、1000人の青年招待延期にまで至っている。この異常なまでの強硬措置に対して、日本政府部内では「国内の批判を封じる狙い」との見方が強いが、この見方は甘くないか。最近の中国の南シナ海、東シナ海における軍事的プレゼンスの増大の背景には、明らかに中国政府の戦略的な意図を感ぜざるを得ない。「隴(ろう)を得て、蜀(しょく)を望む」の拡張主義であろう。インドネシアとは一触即発の軍事衝突まで起きそうになった。しかし日本以外の国に対しては、総じてそれほど強硬な態度を取っていない。米国の台湾への武器売却問題では軍の相互訪問を一時停止、オーストラリアのウイグル会議代表へのビザ発給は中国外務省副部長の訪問取りやめ程度で終わっている。
これが意味するところは何か。やはり「どこまで許されるか」と日本を試そうとしているとのアーミテージの見方に尽きる。靖国参拝問題などで日本は「押せば退く」ことを“学習”して、尖閣衝突事件でも、どこまで退くかを見極めようとしているのだ。去る4月に中国潜水艦など10隻が沖縄本島沖の公海を通過したのと同じ、“様子見”である。どうしても単細胞的に対応しがちな島国日本と比較して、大陸国家は長期戦略に読みの深い布石を打つ。これに翻弄されてはならない。財界も状況を見極めずに早期決着だけを求めるべきではない。尖閣沖事件を意図的に引き起こしたのか、偶発的事件を活用しているのかは別として、国内対策と言うより膨張主義の展望を開こうとしているのだ。今中国大使館の最大の役割は、政府ばかりか、マスコミ、財界などの反応を詳細に本国に送ることであるに違いない。
どう対応すべきかだが、無理も通れば、道理になってしまう。領海内における公務執行妨害事件として粛々と対処するしかない。捜査当局は、船長を当然起訴すべきだし、もちろん政府は船長の強制退去など政治的配慮をすべきでない。ここで譲歩すれば、尖閣諸島海域は中国漁船であふれかえり、第2、第3の事件が発生して、かえって収拾が付かなくなる。加えて中国側に対しては、共産党一党独裁国家とは違う民主主義国の三権分立と日本の刑事手続きのイロハをよく説明する必要がある。国内法に基づく刑事手続きを国家の意思ととらえる反応が見られるからだ。特に女性報道官は分かっていない。アーミテージは「いかなる領土も日米安保条約の対象になることを中国は認識すべきだ」と“脅し”のつぼをわきまえた発言もしているが、民主党政権になって冷え込んだ米国との連携再構築も不可欠だ。
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