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2010-09-05 00:00
ブレア新著から「イラク戦争は間違っていたのか」を問う
河村 洋
ニュー・グローバル・アメリカ代表
イギリスのトニー・ブレア元首相は、バラク・オバマ大統領がイラク戦争の終結を宣言したその日に、“A Journey”と題する新著を刊行した。これは偶然だろうか?いずれにせよ、オバマ氏が「ページをめくる」と宣言したのと同じ日に、ブレア氏の新著が店頭に並んだ。大統領選挙には反戦候補として登場したオバマ氏だが、FPIのウィリアム・クリストル所長は「オバマ氏の演説は兵士に敬意を払ったものだった」と述べている。ともかく、オバマ氏は自らのリベラル思想と大統領の職責との微妙なバランスをとろうと心がけていた。とはいえ、最高司令官であるオバマ氏が「イラクでの作戦任務は正しかった」と信じきってはいないので、この新著からブレア氏がジョージ・W・ブッシュ氏と共にイラク戦争を戦った理由を模索することが重要である。またブレア氏の他の論文も参照して「主要先進国が対テロ戦争で国際社会をどのように導いてゆくべきか」も模索したい。
首相在任時のブレア氏は『フォーリン・アフェアーズ』誌への投稿で、「イラクとアフガニスタンは、安全保障や軍事を超えた価値観の観点から対テロ戦争に勝利するための出発点だ」と主張した。その論文においてブレア氏は「イスラム過激派は、安定した民主主義を破滅させ、イスラム世界を半封建的な宗教的圧政支配に戻すことを求めている。また、大量破壊兵器が見つからなかったとはいえ、イラクは国際安全保障に重大な脅威だった」とも明言した。イラクはクウェートとイランに侵攻し、化学兵器でクルド人を虐殺し、国際連合はバース党政権に14回もの決議を突き付けた。
ブレア氏は、新著で大量破壊兵器の情報にも言及している。メディアと反戦活動家達は「情報に誤りがあった」と非難したが、ブレア氏は「大量破壊兵器が発見されていれば、彼らも戦争を容認したであろう」と述べている。さらにブレア氏は「なぜサダムは核兵器を隠蔽しているかのように見せる行動に出たのか」と疑問を述べている。ブレア氏は今でも「正しい決断を下した」と信じている。サダム・フセインのイラクは中東での支配的地位を求めていた。核保有は、イラクがイランとイスラエルに対して優位に立とうという野望の実現には必要不可欠であった。私は「米英両国の攻撃が正しかったか、どうか」の評価を下すうえで、これが重要な点だと信ずる。サダムが国連査察官を愚弄したのは、そのような誇大妄想にとりつかれていたからである。現在、核開発の野望を抱くイランや北朝鮮に対処する際には、このことを忘れてはならない。
ブレア氏はサダムに殺された人数として、(1)イラン・イラク戦争(1980~1988年)60万~110万人、(2)クルド人へのアンファル作戦(1988年)10万人、(3)クウェート侵攻および湾岸戦争(1991年)7.5万人、(4)対シーア派反攻(1991年)5万人、(5)その他の政治的な虐殺10万人を挙げている。イラク戦争は、過激派と専制政治に対する戦いの一例に過ぎない。『ガーディアン』紙とのインタビューに応じたブレア氏は、「グローバル化によって、ならず者国家に対する軍事介入の必要性はこれまで以上に高まっている」と主張する。ブレア氏は「イランは、アメリカよりも近隣アラブ諸国にとって、もっと差し迫った脅威である。イランが核兵器を保有すれば、中東地域で他の国も核保有に走るようになる。そうなると中東地域とイスラム世界での力のバランスが崩れてしまう」と言う。そして「イランの核保有を許すというリスクを犯そうとは思わない」と結論づけている。
オバマ氏がイラクからアメリカの戦闘部隊を撤退させたこの時期こそ、「イラク戦争の何が正しく、何が間違っていたのか」を検証し、テロリスト、過激派、ならず者国家の野望を打ち砕くための教訓を得るべきである。ブレア氏は、我々にそのための貴重な提言を行なっている。
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