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2010-09-01 00:00
(連載)2008年アメリカ金融危機秘話(1)
池尾 愛子
早稲田大学教授
1月10-11日付本欄で紹介したアメリカ社会科学連合年次大会で話題になっていたアンドリュー・ソーキンのノン・フィクション・ドラマ『大きすぎて、つぶせない』(Too Big To Fail、2009)の邦訳が、『リーマン・ショック・コンフィデンシャル』(加賀山卓朗訳、早川書房)という題で出版されている。著者のソーキンは、2008年金融危機を取材してきた『ニューヨーク・タイムズ』紙の記者である。彼は、2008年3月の投資銀行ベア・スターンズ救済から、9月の政府支援法人(GSE)の住宅金融会社ファニーメイとフレディマックの救済、投資銀行リーマン・ブラザーズの破産、大手保険会社AIGの救済、パニック対策など、アメリカでの金融危機の進展と対処を、人間模様が織り成すドラマ仕立てに描き出した。
主役は2つのグループで、脇役はヘッジファンドである。主役の1つはアメリカの投資銀行で、新しい金融ビジネス・モデルを展開して莫大な利益を上げたものの、世界を金融危機に巻き込んだうえ、破綻や吸収合併を免れたものは銀行持株会社になって連邦準備制度の規制の対象となったのである。もう1つの主役は、アメリカの金融規制当局である。その具体的な中心は、当時のヘンリー・ポールソン財務長官、ウォール街を監視するティム・ガイトナー・ニューヨーク連邦銀行(NY連銀)総裁(現米財務長官)であり、さらに投資銀行を管轄していた証券取引委員会(SEC)のクリストファー・コックス委員長の行動も注目されている。
著者は、一つの金融ビジネス・モデルの終焉を描き出したと考えている。それは、確率論や金融工学に支えられた複雑なモデルに頼って、新しい金融派生商品(デリバティブ)を開発したり、データから理論計算される価値と市場価格との乖離を利用した裁定取引を繰り出すための分析を行ったりして、利益を上げようとするモデルのはずである。しかし、著者は技術的な議論をあっさりと焦点からはずした。それでも残った専門的話題は、レバレッジ(負債の自己資本に対する比率)の高さ、クレジット・デリバティブの爆発的成長、債務不履行のドミノ効果の高い可能性、ヘッジファンド(私募)の空売り、『モラル・ハザード』批判、各銀行の明暗を分けた特定金融(派生)商品の取扱い・不取扱いなどである。プロローグとエピローグで注目されるべき論点が簡潔に紹介されている。何が金融危機の根本原因であったかについては、今後、議論の山場を迎えそうな気配である。
著者は同書執筆のために、自身や同僚・他社の取材記事、ブルームバーグやCNBCの番組に加えて、金融危機をめぐる出来事の情報源・当事者200名余りに対して500時間を超えるインタビューをおこなった。「歴史的瞬間」に立ち会っていると認識して詳細なメモをとっていて、それを著者に提供した最高経営責任者(CEO)もいたと記されている。読めば、それが誰かも推理できる。大勢の関係者が本書執筆に協力した理由には、金融危機について一般に報道されていたことや、彼ら個々人が知りえていることを含めて、全体として何が起っていたのかを記録してほしかったからだと推理できる。出版時点で係争中であったり、また訴訟を招きかねないような事柄は当然省かれている。そのため、読者には一般報道を参照し、行間を読むことが求められる。(つづく)
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