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2010-08-11 00:00
(連載)アメリカのアンカー・ベイビーをめぐる憲法改正論争(2)
島 M. ゆうこ
エッセイスト
この提案Aで一般的に解釈されている要点は、(1)不法入国及び不法滞在している成人は犯罪者であり、その犯罪の意味を理解していることが推定される、(2)6歳以上、18歳までの子供が不法入国し不法滞在した場合、州はその子供に違反する意志が最初からあったかどうかを証明しなくてはならない、(3)6歳以下の子供が不法入国及び不法滞在した場合、罰則又は有罪の対象にはならない、の3点である。提案Aでは、アメリカ国内で不法移民の両親の間に生まれた子供の市民権は否定していないが、アメリカ合衆国への不法入国そのものを事前に阻止するねらいがある。
提案Bは、生まれた子の両親のいずれかがアメリカ市民であるか、又は合法的移民である場合に限り、その子にアメリカ市民としての特権を与えることである。この提案の支持者は、永住権は取得しているが、市民権は所有していない移民と、合法的に入国して、一時的に滞在している外国人とを区別する必要性を主張する。この場合の区別に関しては、2つの案がある。1つは、学生ビザや労働ビザなどで合法的に入国したとしても、一時的な滞在である場合、両親のいずれかが永住権を獲得していない限り、生まれた子供に対するアメリカ市民の権利は否定されるが、2つ目は両親が合法滞在である限り、子供の市民権は認めることである。
更に、提案Bを採用して憲法改正を行った場合、問題をかなり複雑にする可能性が大きい。例えば、両親がいずれもメキシコからの不法移民であっても、アメリカで生まれた子供は、現行法ではアメリカ市民になるが、提案Bではメキシコ政府に一切の権限を委ねることになり、メキシコ政府がその子をメキシコ市民と認めない限り、無国籍になる可能性もある。仮に、父親がメキシコからの不法移民であり、母親がグアタマラからの不法移民である場合、アメリカで生まれた子供の国籍はどうなるのか疑問である。この案の最悪なケースは、不法移民の未婚女性が子供を生んだ直後に死亡し、その女性の国籍も父親が誰であるかも不明な場合である。アメリカで生まれ、孤児になったその子の国籍はどうなるのか、具体案がない。また、この改正案が成立した場合、成立1分前に誕生した双子の一人はアメリカ市民、1分後に誕生した別の双子はアメリカ市民ではなくなるなど、不合理な状況も考えられる。このように、個々の様々なケースについても具体的な規定が必要になり、その論議は延々と続くことになる。
アメリカには多様な移民パターンがあり、個々の具体的な問題を考慮した場合、憲法修正第14条の改正は更に物事を複雑かつ困難にするだけである。この法の改正を支持しない人たちは、「改正案が成立するためには、上下両院で議員の3分の2の賛成票が必要であり、また4分の3の州立法府が憲法改正を批准する必要がある」ことを挙げて、「上記A及びBの改正案が実現する可能性は実質的に難しい」と主張している。筆者は、前回の投稿で不法移民の数が現在1100万人に達していると述べたが、不法移民を犯罪とした場合には、犯罪者の収容場所の問題、それに伴う税金増大の可能性など、更に難しい問題が続出するのは明らかである。アメリカの先人は、このような複雑で難しい問題を避けるために、出生地に基く、最も単純で明快な市民権の解釈を後世に残したのではないだろうか。(おわり)
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