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2010-06-29 00:00
菅は消費税で“毒皿”路線を行くしかない
杉浦 正章
政治評論家
一見唐突に見える首相・菅直人の消費税発言は、サミットと参院選を両にらみした戦略であった。サミットでは、G20の財政赤字半減目標を日本だけ除外に持ち込むことに成功、一方参院選は、自民党の消費税10%案に乗ることで“相打ち”を狙ったのだ。ところが、有権者の反応は民主党政権に向かい、サミットの公約が足かせとなって、今後引くに引けない状況が生じてしまった。乾坤一擲(けんこんいってき)の勝負があだとなり、にっちもさっちもいかなくなったのが、消費税をめぐる現状だ。しかし、もう引くわけにはいくまい。大ぶれは混乱に輪をかける。「毒を食わば皿まで」しかないのだ。
自民党との相打ちまでは読めたが、「サミット狙い」は結果が出るまで気づかなかった。菅の狙いは、(1)まず消費税発言をする、(2)財政運営戦略で2015年までに赤字半減を確認、(3)G20サミットを「財政」でリードして、2013年に赤字半減を確認するが、日本だけは除外、というところにあったのだ。菅が財政再建について「リードして、大きな方向性について意見を述べた」と述べているのは、そこに狙いがあったことをいみじくも物語っている。しかし日本だけが、国内で決めた財政運営戦略を守ればよいという決定は、逆に言えば、財政運営戦略が国際公約になったことを意味する。消費税なくして2015年までの赤字半減はあり得ず、菅は消費増税でも間接的ながら国際公約したことになる。一連の構想の裏には、「財務省主導」の形跡が色濃く読み取れる。
ところが国内を見ると、野党ばかりか、与党からも、ほうはいとして消費税批判の声があがり始めた。今や“政局師”と化した小沢一郎は、「選挙で4年間は上げないと言った。国民との約束はどんなことがあっても守るべきだ」と、選挙後の揚げ足取りを狙っての発言だ。実際地を這う選挙運動を展開している民主党候補らからは、悲鳴に近い怨嗟の声があがり始めている。まさに菅は、総選挙前に一般消費税を打ち出したが、公示後に取り消した、大平正芳と全く同じ立場に置かれているのだ。苦し紛れに政府・与党幹部は官房長官・仙谷由人と幹事長・枝野幸男が6月27日夜、消費税発言を控えることを申し合わせたが、効果は望めまい。菅はカナダで新聞報道を怒って、「もうちょっと正確に書いてほしい」とクレームをつけた。しかし10%を「公約と受け取って結構」とまで発言すれば、見出しは当然そこに集中して、数字が先行して駆け巡る。報道に問題はほとんど無い。
どうも鳩山由紀夫以来、民主党政権はチャンスをピンチに変えるのに独特な才能を発揮しているようにみえる。菅も、V字型支持率回復のチャンスを、消費税でピンチに変えてしまった。菅は「消費税を含む税制改革の議論を呼び掛けたところまでがわたしの提案」と発言のトーンダウンを開始した。しかし、いったん国政選挙において消費税増税を打ち出して争点とした菅の方針は、理由はともあれ評価されるべきであり、ここは右顧左眄すべきではない。菅が、単なるポリティシャンか、それともステーツマンかが問われる事態になっているのだ。加えてG20の国際公約となっている問題であり、ここで大ぶれすれば、財政再建はおぼつかなくなり、市場の混乱と「日本売り」は目に見えている。
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