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2010-06-28 00:00
(連載)パラレル・ヒストリーの薦め(1)
池尾 愛子
早稲田大学教授
1995年のことに遡るが、「1945年以降の経済学の国際化」というテーマの国際会議がアメリカのデューク大学で開催された。このプロジェクトは当初、「1945年以降の経済学のアメリカ化」というタイトルで始まったのであるが、「アメリカ化」は「ヨーロッパにおける経済学の国際化の延長線上にある」とヨーロッパの研究者たちから強い批判の声が上がり、タイトル・テーマが変更されたのであった。一方で、日本のケースについては、結果として、それをサポートするような議論を展開することに落ち着いた。他方で、スウェーデンと韓国については、「経済学の国際化」よりも「経済学のアメリカ化」の方が適切である、との議論が力強く展開された。スペインやポルトガルの場合には、ラテン・アメリカでスペイン語やポルトガル語に翻訳されたアメリカ経済学の教科書が、大西洋を越えて迂回輸入されてくることが報告され、興味を引いた。
今振り返ってみて、気の毒にも期待外れであったのが、「欧州経済共同体(EEC)=欧州連合(EU)の経済学」であったと記憶する。EUを理解するために、EEC時代からの歴史をたどるのはよいにしても、「EUの経済学」と呼べそうなものがわからなかったのである。組織者の故コーツ氏がついに「政治主導で経済統合を進めてきたので、EUには経済学がないというのか?」と発言した。会議では、「そんなことはないだろう」との空気が漂っていた。会議が終了してしばらく経たあとで、EUを担当したマエス氏は、「1983年にブリュッセルに設立されたシンクタンク欧州政策研究センター(CEPS)を挙げておけばよかった」と悔やんでいた。
EUの経済学といっても、EUの経済や政策についての研究内容以外にはないのである。確かにEU政策はミクロあるいは産業レベルではかなり語られてきたと思う。しかし、それ以外の経済政策は、国際経済学の中で語るのか、国内向けマクロ経済学の中で語るのか、などと考えながら、ウェブを調べてみると、CEPSの欧州経済政策誌の名前は Intereconomics であった。やっぱり不可思議である。ギリシャの金融危機はいつごろから予想されたのであろうか。ユーロ導入国の中では、同国の財政赤字の幅が大きいことは、数年前からデータを見れば明らかであった。しかし、緊急対策手段の一部が公表されたのは、今年2010年4月頃になってからである。一国の国債は欧州中央銀行(ECB)には購入できないので、格付けの下がったギリシャ国債をフランスやドイツなどユーロ導入国政府が購入するという緊急対策が提示されたのであった。
1月11日に本掲示板に「ECB設立以前には、ブリュッセル近郊のルバン・カトリック大学あたりから金融政策情報が伝播していったようであるが、ドイゼンベルク前総裁を含む前ECB理事会メンバーは大学などで教えず、公的発言も控える方針を採っている、と以前に聞いたことがある」と書いたように、ECBの緊急対策は秘密のベールに覆われていた。政治主導での経済制度改革、財政赤字抑制の道徳的説得だけでは、金融経済危機は未然に防ぎきれなかったことになる。そして、こうした「裏技」ともいえる政策手段の効果などについて、自由な研究が行われていなかったという事実が付随する。政策手段の情報が研究者には伝えられなかったので、現実経済に対する研究意欲がそがれることになったとすれば、それは由々しき事態である。この点は、データベースのパッケージが売られ、学会大会で金融危機やその対策が大らかに議論され、現実経済に対する研究意欲が旺盛なアメリカとは、大きな対照をなす。(つづく)
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