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2010-06-21 00:00
自民党は消費税増税のテーブルに着くべし
杉浦 正章
政治評論家
太筆書きするなら、国民に甘言を弄し続けるのか、国家財政の崩壊を阻止するために厳しい負担を求めるのか。これが、今日本の政治に突きつけられた直近の課題だ。甘言派の象徴は、共産党、社民党など左翼政党だが、下手をすると消費税増税が党是の自民党や民主党内小沢グループまで、甘言派になりかねない側面がある。首相・菅直人は、もともと10%増税を主張した自民党案に乗ろうとしているのであり、自民党首脳も、ここは拒絶反応を起こさずに抱き込むくらいの度量を見せるべき時だ。自民党執行部の反応は総じて、菅の狙いを見極めようにも理解できず、とりあえず菅批判に動こうというように見える。まさか新首相が就任早々、しかも参院選を直前にして、10%の消費税増税を公言するとは予想だにしていなかったに違いない。しかし財務相になってからの菅の言動をつぶさに見れば、十分予想されたことだ。菅はあらゆる過去の例を見た上で、確信犯的に踏み切ったのである。そして「テーブルに着こう」と呼びかけたのだから、ここは少なくともテーブルに着くべき時ではないか。
ところが、自民党は、総裁・谷垣禎一が「ばらまきの衆院選の民主党マニフェストをまず撤回すべきだ。消費税をどれだけ増やしたらいいか分からない議論に巻き込まれるのはご免だ」と拒絶反応。幹事長・大島理森も6月20日のNHKでやはり消費税の撤回を前提条件に置いた。これはまさに木を見て森を見ない議論だ。「マニフェスト詐欺」で政権に就いた民主党が憎いことは分かるが、ことはマニフェストの個々の政策を遙かに凌駕した大問題の提起となっていることをわきまえるべきだ。「全部、自民党の答案をカンニングして、まる写しした」と谷垣は言うが、財務省の手のひらで踊っている点は同じではないか。カンニングなどさせてやればよいのだ。もちろん菅にも思惑が垣間見えぬわけではない。どっちみち避けて通れない議論なら、竹下登が言っていた「消費税、みんなで渡れば怖くない」路線を踏襲して、消費税に関しては参院選では“おあいこ”に持ち込もうという戦略だ。こういった思惑は別としても、投げかけた網が大きすぎて、受け止める側も、政治家としての度量が求められている。
もちろん、民主党が子ども手当や農家への戸別所得補償、高速道路無料化などの巨額の財源が必要な政策を維持していることから、谷垣が「10%なんかでは収まらない」と指摘するのはもっともである。NHK討論を聴いても“論客”であるはずの民主党幹事長・枝野幸男は、この論点に回答を持ち合わせていなかった。しかしだからこそテーブルに着くことが必要なのではないか。自民党が「マニフェストで謝れ」と言うなら、民主党は何度でも謝るべきだ。問題は、自民党幹事長が民主党幹事長を論破して悦に入っている段階を越えているのだ。問題の核心は、共産党の主張のような絶対反対では「国家財政のギリシャ化」は目前であり、だれが見ても消費税抜きでは国家財政が成り立たないところまで来ている、という認識の有無だ。2大政党は、共産党や社民党のように一般大衆に甘い言葉をささやきかけ、票を誘導する政治に陥ってはならない。自民党は、消費税を政争の具にせず、いまこそ菅の提言を逆手にとってでも、国民の負担の分かち合いを正面から求める政治、消費税から逃げない政治の実現にまい進すべきではないか。
共産党書記局長・市田忠義は「民主、自民、公明、みんなの党は、時期は別として消費税増税で大連合ができている」と指摘したが、これはよい指摘だ。消費税で、一刻も早く政策大連合を成立させて、時間切れ間近の財政危機を突破すべきだ。折から世論調査で軒並み内閣支持率が低下した。大平正芳が一般消費税を提唱して衆院選挙に臨んだケースと似てきた。朝日新聞の調査では、菅内閣の支持率は50%で、1週間前の前回調査の59%から下落し、「いま投票するなら」として聞いた参院比例区の投票先も、民主36%(前回43%)、自民17%(同14%)、みんな5%(同4%)と民主がかなり減らした。読売は、菅発言を「評価する」が48%で、「しない」の44%を上回ったものの、支持率は55%と前回59%から減らした。今後、野党は消費税批判に勢いづくことが予想され、民主党内も小沢が参院幹事長・高嶋良充をして「勇み足だ。首相の真意がわからない」と言わしめているように、足を引っ張る動きが台頭しかねない。菅は大平のように、選挙途中で方針修正の誘惑にかられるだろう。しかし、修正すれば鳩山と同じ“大ぶれ首相”となる。
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