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2010-06-07 00:00
内外政難問山積の「地雷原」を行く管政権
杉浦 正章
政治評論家
総理就任の高揚感が薄れるにつれて、首相・菅直人は直面する内政・外交上の課題に慄然(りつぜん)とする思いとなるはずだ。鳩山政権の「荒唐無稽(むけい)政治」の最大の置き土産である日米安保関係立て直しに加えて、財政再建と消費増税問題をはじめ、直面する参院選をどう乗り切るか、など重要課題が目の前にひしめいている。党内きっての雄弁も、結果責任が問われる首相答弁では、巧言令色を指摘されるだけだ。まさに地雷原を行くが如しであろう。有権者の“ご祝儀”もあって支持率のV字回復でのスタートだが、これは参院選挙までは持続する可能性があり、「小・鳩体制」での選挙より有利に推移しよう。しかし政局は流動化の側面が強く、展開によっては、早期に衆院解散・総選挙を迫られる状況が生ずるかも知れない。古い政治記者の友人から重要な指摘を聞いた。「菅は、国会で首班指名を受けたが、天皇の首相任命式を受けていない。組閣もしておらず、もちろん閣僚の認証式も行っていない。いま日本国に首相が2人、そして総辞職した内閣が残っている。6月8日に首相任命式、組閣と閣僚認証式というのだから、日本国にぽっかり4日間の政治空白が生じてしまった」というのだ。
確かに、スタート早々から憲政の常道に反する対応だ。ルーズでは済まされないない問題だ。首相の地位に対する認識に欠ける。外交では、早くも米国からきつい牽制球が飛んできた。米国防長官・ゲーツが民主党代表選の4日「北朝鮮による韓国の哨戒艦の沈没は、北東アジア地域が安全保障上の挑戦を受けていることを浮き彫りにし、地域のすべての国々にとって、日米同盟の重要性が明確になった」と指摘して、「日本の次の総理大臣に誰が選ばれようと、日米の安全保障関係を重視すると表明してほしい」と述べたのだ。根底に「駐留なき安保」の思想があった鳩山由紀夫が壊した日米信頼関係の大きさが、いまさらながらに浮き彫りになる発言である。菅は大統領オバマとの信頼関係を早期に構築しなければなるまい。また「待ったなし」の問題が、日米共同声明で確認したキャンプ・シュワブ辺野古崎地区への代替施設の配置、工法の検討を今年8月末までに完了しなければならないことだ。しかし、地元無視で完了に持ち込むわけにはいかない。埋め立てには県知事の承認が必要だが、知事が反対の場合、法改正して特別措置法を成立させてでも断行できるか。安保闘争や成田闘争をほうふつとさせる基地反対闘争が東京と現地で巻き起こる危険がある。参院選にも少なからず連動しよう。首相が代わったからといって、問題の本質は何ら変っていない。
消費税率引き上げ問題にも直面する。菅は財務相時代に「中期財政フレームを考えるにしても、このままの税制でいいのか」と、4年間引き上げないとする鳩山と一線を画してきた。参院選向けのマニフェストで、衆院選後の引き上げには言及せざるを得まい。借金漬け財政からの脱皮を2011年度予算でスタートできるかどうかも焦点だ。そのためには菅の公約である「国債発行44兆円以下」をなんとしてでも実現しなければなるまい。至難の業ではあるが、指導力を問われる問題だ。国会も、郵政改革法案の取り扱いが直近の課題だ。ハンドリングを誤ると、政権発足早々窮地に陥る可能性がある。外見上小沢離れを見せている菅も、小沢の証人喚問への対応で踏み絵を迫られる。菅の性格がまた一悶着起こすことも予想される。最近自制しているが、菅は短気で、早ければ5分、遅くとも10分で怒り出す。「イラ菅」たるゆえんだ。当然野党はそこを突き、失言を引き出そうとするだろう。一言で言えば、舌鋒だけは鋭い“攻め”の政治家で、アジテーターでもある。しかしアジテーターには責任が伴わない。守りには弱い。首相としての守りができるかということだ。かって首相・小泉純一郎を年金一元化問題で「“オレオレ詐欺”ならぬ“やるやる詐欺”じゃないですか」と追い詰めたことがあるが、全く攻守はところを変える。マニフェストの“やるやる詐欺”を突かれるからだ。
最近顕著な特徴は、委員会や会議で居眠りすることだ。首相が居眠りしては、国会審議に影響する。閣僚とは格段に違う体力を求められる首相を、体力的に務められるかも問題だ。官僚に対する苛斂誅求(かれんちゅうきゅう)の厳しさは並外れている。厚相時代は大臣室から怒鳴り声がしょっちゅう聞かれたという。最近でも「役人は知恵、頭を使ってない。霞が関なんて、成績が良かっただけで大ばかだ」と述べた話が伝わっている。鳩山政権の行き過ぎた「政治主導」「脱官僚」なるものを大きく修正して、官僚を使いこなす体制を作らない限り、第2、第3の「普天間失政」が発生するのは目に見えている。党内勢力的には「親小沢」の転換を迫られるが、どこまで可能かが試される。田中が脳梗塞で倒れるまで田中角栄のくびきから逃れられなかった中曽根康弘の姿が浮かび上がる。参院選挙も「小・鳩体制」で臨むよりは、リフレッシュ効果もあってプラスに作用するだろうが、昨年の総選挙や前回の参院選挙のような圧倒的な追い風が吹くまでには、とても至るまい。「小・鳩辞任」で民主党の“化けの皮”ははがされたのであり、修復は容易ではない。有権者も身構えている。
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