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2010-06-05 00:00
ガザ支援船団拿捕事件とその影響
茂田 宏
元在イスラエル大使
5月31日、イスラエル海軍がガザに支援物資を届けようとしていた船団(6隻からなる多国籍の船団で、フリー・ガザ運動などのNGOが約1万トンの人道支援物資を届けようとしていた。活動家約700名乗船)を公海上で急襲、拿捕した。その過程で活動家10名が死亡した。その多くはトルコ人であった。6月1日、国連安保理はこの件についてイスラエルを非難し、拿捕された人の釈放、事件の調査を求める議長声明を発出した。EUもイスラエルの行為を非難し、厳正な調査を求め、ガザ封鎖の解除を求めた。米も遺憾の意を表明した。イスラエルのネタニヤフ首相は6月1日に予定されていたオバマ大統領との会談をキャンセルし、イスラエルに戻った。南米訪問中であったトルコのエルドアン首相も、急遽訪問を切り上げ、トルコに戻った。
イスラエルはガザ封鎖のため、この船団のパレスチナ接岸を阻止するとしていた。船団側は、この封鎖に挑戦していたが、イスラエル軍は公海上で拿捕しようとして、ヘリで兵士を船に移乗させ、その後、衝突に至った。イスラエル側は、活動家が兵士を攻撃してきたので、正当防衛として発砲したと説明しているが、船団側はイスラエル兵が先に発砲したと主張している。事情は今後の調査を待つことになるが、欧州、アラブ世界、特にトルコの世論では、イスラエル非難が強くなっている。この事件の結果、いくつかの影響が出てくる。それを以下に指摘してみたい。この拙劣なイスラエル軍の作戦は、イスラエルを国際的に孤立させ、ガザ封鎖の妥当性に疑問を引き起こすことになるだろう。
(1)トルコは、この地域でイスラエルと良好な関係をもち、イスラエルはトルコ空域で空軍訓練をするなどしてきた。今回の事件で、トルコは、駐イスラエル大使を召還、予定されていた合同軍事演習の取りやめを決めた。トルコのエルドアン政権は、もともとガザ封鎖を厳しく批判してきたが、今回の事件はトルコ・イスラエル関係を決定的に悪くすることになるだろう。トルコ国内で、イスラエルとの協力を推進してきたのは、軍と世俗主義者であるが、圧倒的な反イスラエル世論を前に、軍や世俗主義者の政治的な力は打撃を受け、トルコ国内政治でイスラム色の強い勢力が強くなるとのこれまでの変化が、加速されるであろう。
(2)エジプトは、ガザ封鎖の一翼をガザ・エジプト国境封鎖で担ってきたが、この政策は、これまでアラブ諸国の批判を受けてきたものである。ガザを支配するハマスへの厳しい政策の一環であるが、それが今後維持されるかどうか、疑問が出てきた。国内的にも、アラブ世界と言う地域的にも、「エジプトの現在の対応を変えるべし」との圧力が高まるのは、確実である。
(3)イスラエル国内でも、今回の軍の対応への批判が出てくる。ネタニヤフ政権を場合によっては揺るがすことになる。
(4)米国が仲介しているイスラエル・パレスチナの間接交渉にも、今回の事件は影を落とすであろう。パレスチナ側として、何もなかったかのような対応は世論上できない。アッバスは今回のイスラエルの行為を「虐殺である」と非難している。
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