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2010-05-20 00:00
空白で失われた「悪夢」の9ヶ月間
杉浦 正章
政治評論家
歴代政権がガラス細工のように作り上げてきた普天間の辺野古移設問題を、首相・鳩山由紀夫は自らたたき壊しておいて、挙げ句の果てはそれをセメダインで貼り付け、「これが“決着”」と差しだそうと言うわけだ。辺野古埋め立ての日米合意に事実上戻るわけであるから、米国の了解も取り付けやすいだろう。米国の反対さえなければ“政局”は回避出来る、と踏んでいるのだろう。5月20日付朝日新聞によると、月内に日米共同声明で辺野古移転を確認するという。政権発足以来の鳩山政権は、9か月間の失われた政治を形作っただけであり、これがまだ続くのかと思うと、悪夢だ。社民党は離反の色合いを濃くしており、地元では体を張った抵抗がささやかれている。
鳩山がまた“定義”を変えた。今度は「埋め立ては自然への冒涜(ぼうとく)」発言だ。「むやみに行うことに対して、そう発言した」のだそうだ。むやみに行わなければ、よいということだ。しかし環境に配慮した埋め立て案などあるのだろうか。首相の周りが苦肉の策で作っている埋め立て案なるものは、ヘドロを使って周りの珊瑚礁をよみがえらせようというもののようだ。筆者は、この構想も全くの詭弁(きべん)であると思う。なぜなら計画の基本は、辺野古の海を埋め立てて、滑走路を作るのであり、鳩山が「自然への冒涜」とした定義づけは、いささかも変わらない。まるで環境破壊のパルプ工場を作っておいて、回りに花壇をしつらえたから環境配慮だ、と言うに等しい。
駐日米大使ジョン・ルースは「移設を早期に完了できる案を作って欲しい」と防衛相・北沢俊美に要望したが、なるほど早期に完了できる案とは、既に日米合意が達成されている辺野古埋め立てしかないわけだ。鳩山は「最低でも県外」を断念、「杭打ち方式」も断念。「自然への冒涜」は実行する。そして鳩山自身が一番嫌った前政権の合意案へと回帰するわけだ。鳩山の統治能力の欠如をいまさら言っても始まらないが、あまりにひどい。「空白で失われた9か月間」を主演した責任は大きい。この9か月間は、辞めない限り更新されてゆく。10か月間、1年間、そして最大4年間だ。鳩山政権が続く限り、日本にとって間違いなく「失われた時代」だけが形成されてゆくだろう。仏大統領シャルル・ドゴールは「政治家は心にもないことを口にするのが常なので、それを真に受ける人がいると、びっくりする」と述べたそうだが、今の日本人は皆そう思っている。
問題のポイントは、「5月末決着」には日米合意しか含まれないであろうということだ。地元の反対と憤りはもちろんのこと、社民党党首・福島瑞穂は、政府が「閣議決定」「閣議了解」をやめて「首相発言」で決着させようとしていることについて、強く反発している。政府が強行すれば、当然連立離脱が念頭にあるのだろうが、まだ未練たらしく先延ばしも主張しており、分からない。地元の反対運動も、政府が強行突破しようとすれば、「戦後最大のレジスタンスに遭う」(社民党参院議員・山内徳信)という状況だ。鳩山は、あおりにあおった挙句、ついには休眠状態にあった成田闘争的な左翼運動を盛り上げてしまうかも知れない。米国との「合意」と同時に、地元、連立との「合意」も、「合意」である。ここでも、鳩山は、また定義を変えてお茶を濁すのか。
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