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2010-04-23 00:00
タイの政情混乱について思う
茂田 宏
元在イスラエル大使
4月10日、バンコックで赤シャツの反政府デモと治安部隊が衝突し、日本人カメラマンを含む20名以上の死者が出る惨事となった。アビシット首相は4月7日に非常事態宣言を出し、3月14日より続いているデモ隊を解散させようとしたが、失敗した。死者が出た原因については、治安部隊の発砲によるとの説とデモ隊側の挑発行為によるとの説がある。しかしこの惨事で死亡した人を追悼する行進をデモ隊が行うなど、デモ隊側はこの惨事を利用することに成功している。
アビシット政権は3月27-28日、デモ隊側とテレビ放映された交渉を行い、デモ隊側が即時議会解散と選挙実施を求めたのに対し、9ヶ月後に選挙を行うことを提案した。しかしデモ隊側はこれを受け入れなかった。今回のデモ隊と治安部隊の衝突を受け、政権を構成している政党や軍の中にも、選挙をさらに前倒しして行うことで、事態を収拾すべしとの声が出ている。
タイの政治の混乱は既に2年以上続いている。その根本原因は、バンコックのエリート層が1人1票の原則を認めず、教育のある中産階級の1票とたとえば東北タイの農民の1票の価値は違うというような考え方で、選挙結果を無視する道に固執してきたことにある。それがアビシット政権の正統性への疑問につながっている。こういう状況をこれまで解決してきたのは、国民の信頼の厚いプミポン国王の介入であったが、国王は高齢で病気入院中であり、介入する体力も、意欲もない模様である。軍も2006年のクーデタで政権交代を実現したが、その後の選挙で再びタクシン派が勝利したことから、再度事態の収拾に乗り出す意欲をもっていないと見られる。
アビシット首相は、近いうちに選挙を行い、国民に政権選択をさせる以外に、タイ政治を正常化する道はないのではないかと思われる。赤シャツのデモが始まった際には、参加者は東北タイからお金をもらってデモに出てきているのだと言うような話もあったが、デモの持続性は予想を超えて強い。タクシンがタイ社会のなかの恵まれない人々に政治への関心を持たせ、これらの人々をエンパワーしたとの説があったが、それが正しいことが証明されていると思われる。民主主義の手続き以外に、今の混乱を収める道は見えない。タイには日系企業も多く、タイ人は概して親日的である。日・タイ関係は良い関係を維持してきた。選挙により出来るいかなる政権とも、日本は良い関係を続けることが出来るだろう。混乱が続くタイは、日本にとって最も好ましくない。
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