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2010-04-16 00:00
こんなことで政府が壊れるとは?
杉浦正章
政治評論家
「殿ご乱心」の印象を和らげたい気持ちは分かるが、政権が抱える最重要の問題で、「ごまかし」だけはやめてもらいたい。官房長官・平野博文が首相・鳩山由紀夫のいう「決着」の定義を、ここ数日“軟化”させようと躍起になっている。鳩山自身が米国、沖縄、国民の3点合意を「決着」としているのに対して、平野は移転先と交渉が始まっていれば「決着」だとしたがっているのだ。鳩山の責任問題への波及を食い止めようという思惑が見え見えで、見苦しい。もはや一官房長官が左右できる次元を越えた問題であることに気づくべきだ。
外交・内政でぶれにぶれていた鳩山が、ここに来て普天間移設問題だけは、なぜかぶれない。年末から3月末にかけての党首討論、日米首脳会談にいたるまで、一貫して「5月末決着」を言い続けている。党首討論では「5月末までに移転先を国民にもアメリカにも合意の上で決める」と明言した上で、「出来ないときにどうする、といった弱い発想では交渉できない。命がけで交渉に臨んでいる」と政治生命をかけていることを強調した。大統領・オバマに対しても「5月末決着」を確約し、4月15日には「決着とは米国、沖縄だけではなく、国民の皆さんも、この方向で行こうと理解を示すことが前提だ。基本的には3点満たされれば決着だ」としたうえで「私としても、これは覚悟を決めて臨んでいる話」と言い切った。
誰がどう見ても退路を断つ発言を繰り返しているが、その真意はどこにあるのだろうか。筆者は2つの可能性があると思う。一つは、自分が退路を断っていることを、全く分かっていない可能性。他の一つは、退陣の覚悟を固めている可能性だ。前者は、就任以来すべての言動が「分かっていないレベル」の首相だから、自分のその場しのぎの発言に、単に酔っているだけと見ることができる。後者よりその可能性が大きい。5月末直前になって言い訳発言をして、ひんしゅくを買い、いよいよ野垂れ死に的に退陣に追い込まれるケースだ。後者の「退陣の覚悟」だが、「命がけで交渉」とか、「覚悟を決めて臨んでいる」は、普通なら退陣の覚悟を決めなければ出てこない言葉だ。しかし問題は首相が「宇宙人」と言われるほどエキセントリックな性格の持ち主であり、言葉などは、その辺にあるものを適当に選んでつかっているだけというふしがあることだ。言葉が軽いのだ。前者か、後者かは、まだ見分けがつかないが、今後1か月半は前者と後者の間を浮遊して、行きつ戻りつするのかもしれない。
こうした首相を抱えて第一の側近役の平野も大変だろうと思う。しかし平野も国民の負託を受けた政治家であろう。「惻隠の情」を取るか、「国の舵取り」を取るかを、平野は今迫られているのである。スポットライトは集中して当たっていて、ごまかしは利かない。マスコミは「ごまかしともとれる発言を繰り返すのは、首相に政治責任が及ぶのを回避する予防線」(朝日新聞)と読み切っているのだ。国の政治の中枢にあるものが、仮にも「ごまかし」と受け取られる発言を繰り返すべきではあるまい。普天間問題が象徴するものは、鳩山内閣の政権担当能力の問題なのであり、ここは正直に力不足を認めて、かぶとを脱ぐときだ。朝日は、政府高官が「こんな事で政府が壊れていくのは、悲しいものがある」と嘆いていると報じている。よほど食い込んでいないととれない言葉だ。しかし、いみじくも「こんな事」という認識が、鳩山政権の“甘さ”を象徴しているのだ。
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